遺留分の金銭請求権化 中條レポートNo286

2019年7月1日施行の改正相続法により、「遺留分減殺請求」が「遺留分侵害額請求」に変更されました。この改正の最大の特徴は、遺留分の請求が物権的請求から金銭請求権になったことです。

1. 従来の「遺留分減殺請求」の問題点

改正前は、遺留分を侵害された相続人が遺産の現物(不動産や株式など)を直接取り戻す権利を持っていました。

例えば、不動産を遺贈された相続人に対し、遺留分を持つ相続人がその一部の返還を求めることができました。そのため不動産が共有状態になり相続人間のトラブルの原因になりやすい等の問題点がありました。

こうした課題を解決するために、法改正が行われました。

2. 「遺留分侵害額請求」とは

改正後は、遺産の現物を取り戻す権利ではなく金銭での請求権に変更 されました。つまり、遺留分を侵害された相続人は、侵害された遺留分に相当する金銭を請求する権利 を持つことになります。
この変更により、不動産などが共有にならずトラブルが減る等のメリットが出ました。

一方で、「遺留分侵害額請求」は 金銭債権 として扱われるため、 請求相手に支払い能力がない場合、問題が発生します。
支払えなかった場合には 遅延利息を請求されることもあり、財産が自宅などで売却できない場合には解決が難しくなる可能性があります。

4. まとめ

今回の法改正により、遺留分の請求は「遺産の現物返還」から「金銭請求」になりました。この変更により、遺言執行が遺留分の請求によって妨げられることがなくなり、遺産分割の混乱を防ぐ効果が期待 されています。

しかし、遺留分を請求された受遺者に支払い能力がない場合の対応という新たな課題もあります。そのため、遺留分を侵害する内容の遺言書を作成する際には、遺留分相当額の支払いを準備しておくことが重要 です。

遺言作成に専門家のアドバイスが欠かせない場面です。

気を使い、お金を使い、時間を使う 野口レポートNo342

相続の仕事をしていると弁護士先生のお世話にならなければ対応ができないことがあります。下記の項目はよくある事例です。

遺留分侵害額請求権の行使、もしくは行使された時の対応

ウンともスンとも言わず、相手が無視を続ける

調停が不調に終わり審判に移行してしまった

何回協議しても遺産分割がまとまらず法律で裁くしかない

相手が代理人(弁護士)を立ててきた

以下は弁護士先生にお世話になった典型的な事例です。

◎兄と弟の2人兄弟で弟さんからの相談です。兄は奥様と長男と長女の4人家族でした。

高齢の兄は数年前に奥様に先立たれひとり暮らしです。介護が必要となり、近くにいる弟夫婦が、買い物、食事の支度、入浴のお世話、通院の付き添いなど、親身になって世話をしています。

 嫁いだ長女は義父母と同居しており、独身で疎遠の長男は離れた所に住んでいます。2人とも父親の世話を叔父夫婦にまかせっきりで、有難いとの感謝の気持ちがありません。

兄は全財産を弟に遺贈するとの公正証書遺言を残していました。遠くにいる疎遠の身内より、親身にみなって世話をしてくれている身近な人に自分の財産を渡したくなるのは人情です。

そして兄が亡くなりました。49日の法要も済ませ、遺言があること、遺留分を戻すことを伝えました。姪は納得したのですが、甥は理不尽な要求を繰り返してきます。さらに弁護士から遺留分侵害額請求の内容証明が届き裁判となりました。正義はこちらにあります。だが常識が法律に勝てぬことなどこの世界の常です。

いよいよ裁判も大詰めとなり、明日は原告(甥)と被告(叔父)の証人尋問です。普通の人が法廷に立つなど生涯に一度あるかないかです。本人は緊張し前夜は眠れなかったそうです。自分達がやってきたことを「ありのまま話せばよい」と背中を押しました。

いよいよ開廷です。傍聴席のすぐ前に証人台があり、傍に私がいるので本人も気持ちが楽になったそうです。正面1段上に裁判官席があり、その下に書記官席、左手に原告の弁護士席、右手に被告の弁護士席があります。

互いの弁護士が被告と原告に一通りの質問をしたあと、最後に裁判官から「それでは裁判所からの質問です」と、双方にいくつかの質問があり、3時間ほどで閉廷となりました。

弁護士チームの適切な対応も功を奏し、数日後に当方の主張にそった和解が成立し、ご夫婦は長い間の呪縛から解放されました。気がつけば内容証明が届いてから3年の歳月が過ぎていました。

最後まで寄りそってきましたが、やむを得ず裁判となれば、精神的かつ経済的な負担に加え、貴重な時間を費やします。そして何よりも大切な財産(家族や親族の絆)を失います。