円満相続の心構え 野口レポートNo327

財産に人の欲と心が複雑に絡んでくる相続は、どうしてもネガティブに考えがちです。今まで多くの相続に立ち会ってきましたが、人生いろいろ 相続いろいろ 相続人もいろいろです。

「明るく、楽しく、清々しく」そんな相続あるわけないだろうとお思いでしょう。が、そんな相続があることも知ってください。

以前に手掛けた2つの相続案件をご紹介したいと思います。

《その1》A家の相続です。父親はすでに他界しており、二男夫婦が母親の世話をし、最後を看取りました。二次相続の遺産は全て預貯金です。相続人は子である兄弟姉妹が5人です。

墓守をしている二男から「遺産は取りあえず自分が相続し、母親の供養に使いたい」との提案がありました。5人で分けてしまえば1人当たり、そんな大きな額にはなりません。

他の兄弟姉妹に異議は無く、全員が二男の提案を受け入れました。最初の法要は49日です、次は1周忌そして3回忌と続きます。

法要に出席する参加者は、交通費、宿泊費、飲み食いの費用は負担する必要はなく、身ひとつで参加します。費用は二男が相続でストックしている遺産から出します。この時ばかりは、5人の兄弟姉妹、子、孫、ひ孫までA家の一族全員が集まります。

法要後は寿司屋を貸し切って食べ放題で飲み放題です。ひ孫も大はしゃぎ、盛り上がる様子が目に浮かびます。一族の絆もさらに深まり、故人も雲の上からよろこんで見ていることでしょう。

全員が次の法要を楽しみに待っています。そして遺産を使い切ったなら通常に戻り、実質の「遺産分割」は終了します。まさに「明るく、楽しく、清々しい」相続ではありませんか。

《その2》次は旧家であるB家の相続です。これも二次相続での母親の遺産分割の話です。母親(配偶者)は一次相続でそれなりの預貯金を相続しています。相続人は子である兄弟姉妹が4人です。

長男が口火を切りました。「自分は父親の相続でそれなりに遺産を相続したので、今回は均分で分けよう。」それに対し二男が反論します。「均分はおかしいよ、兄貴は墓守や親戚付き合いなどもある、自分達より多く相続してほしい。」互いが譲り合い、結局は長男が半分取得し、残り半分を3人の兄弟姉妹が均分で取得することになり、話し合いはわずか30分で終了しました。

これも清々しい相続でした。終わった後お話しをさせていただきました。「ご両親は皆様を“感謝の気持ちと譲る心”を持った人間に育ててくれました。ありがたいことです。これは皆さんが相続した“何にも勝る無形の財産”ですよ。」思わず出た言葉です。

円満相続の心構えです。①素直であれば⇒感謝ができる ②感謝ができれば⇒譲ることができる ③譲ることができれば⇒円満相続ができる ④円満相続ができれば⇒幸せになれる。

愛と理解

愛する前に理解がなければならぬ。
同時に愛しなければ真の理解は得難い。
それ故かかる処にも、生きた真理は、
すべていのちの円環を描いていることが分明である。
[ 森信三 一日一語 ] より

犠牲

この地上では、何らかの意味で、犠牲を払わねば、真に価値あるものは得られぬとは、永遠の真理である。
だからもしこの世において犠牲の必要なしという人があったとしたら、それは浅薄な考えという他ない。
だが犠牲は他に強要すべきものでは断じてない。
かくして犠牲において、大事な点は、自ら犠牲の重荷を負う本人自身には何ら犠牲の意識がないどころか、そこには深い喜びと感謝の念の伴うのが常である。
[ 森信三 一日一語 ] より

夫婦

夫婦のうち人間としてエライほうが、
相手をコトバによって直そうとしないで、
相手の不完全さをそのまま黙って背負ってゆく。
夫婦関係というものは、結局どちらかが、
こうした心の態度を確立する外ないようですね。
[ 森信三 一日一語 ] より

任意後見制度 中條レポートNo269

後見制度には二つの柱がありますが、ここで述べるのは任意後見制度です。

この制度の特徴は、「元気なうちに(意思能力がしっかりしているうちに)、自身が選んだ人に、意思能力が衰えた後のことを託す」という点です。
この取り決めを行うために、本人と託された人が結ぶ契約を「任意後見契約」と言います。

意思能力が衰えた際に、自分が選んだ人に、自分の代わりに預金の出し入れや不動産の売買等の法律行為を行ってもらうためには、家庭裁判所に自身が選んだ人を監督する監督人を付けてもらう必要があります。監督人には、弁護士や司法書士がなります。

しかし、任意後見契約後、意思能力が衰えても監督人が指定されず、任意後見が始まらないことが多いのが現状です。

何故任意後見を始めないのか。
・監督人に報告を行うのが面倒だから。監督人は家庭裁判所への報告義務があるため、家庭裁判所が間接的に関与し、窮屈感がある。
・監督人を付けると、その監督人に支払う費用がかかる。(この費用は本人のお金で支払います)
これらが主な理由です。

任意後見契約を結ぶとき、意思能力が衰えるまでの期間、本人の様々な法律行為を本人の代わりに行う事務委任契約を結ぶことが一般的です。この事務委任契約により、意思能力が衰えた後でも日常のことは何とかなるため、「わざわざ面倒で費用がかかる監督人を付けて任意後見を始める必要があるのか?」という疑問が生じるのです。

これが任意後見を始めない大きな理由です(法律的には正しくないです)。もちろん、不動産の売買等の重要な法律行為は、任意後見を始めないと出来ません。

法務省はこれを問題視し、任意後見が適切に始まるよう対策を講じています。教科書的には法務省の指針が正しいのでしょう。しかし、現場がそれに順応していません。

成年後見制度は過渡期にあり、実務運用が変化しています。地域によっても対応は異なります。今後の動向から目が離せません。