全血兄弟・半血兄弟 野口レポートNo306

5年前にご主人を亡くし、子どもがなく一人暮らしの奥様が亡くなりました。第3順位の相続で奥様の兄弟姉妹が相続人となります。

3人が山口県、1人が佐賀県に住んでいます。末弟(Aさん)が上京し、葬儀や遺品整理など一切を済ませ山口に帰りました。遺産のマンション売却と相続手続きを一括してできるところを紹介してほしいと、葬儀社が頼まれ私を紹介してくれました。

Aさんはすでに山口に帰ってしまい、紹介されたあとは電話と郵便でのやり取りです。一度もお会いしたことはありませんが、私を信頼し全てをまかせてくれました。

相続人の確定をしてみると、父親は離婚し先妻に長男を託し再婚し、後妻との間に4人の子供がいます。被相続人を除き山口在住で両親を同じくする兄弟(全血兄弟)が3人、佐賀在住で父親のみを同じくする兄弟(半血兄弟)が1人、相続人は4人です。

半血兄弟の相続分は全血兄弟の1/2です。それでは各相続人の相続分を出してみましょう。①全血兄弟と半血兄弟全員の人型を書いてください。②全血兄弟の前に団子を2個置きます。③半血兄弟の前には団子を1個置きます。③全部の団子の数(7個)が分母になります。各相続人の前にある団子の数が分子となります。相続分は全血兄弟が2/7で、半血兄弟は1/7となります。

労の多かったAさんがマンションを取得し、費用を全て差し引き残ったお金は全員に各相続分で分配することを提案しました。

この種の相続は先妻の子と後妻の子の人間関係の良しあしが遺産分割に影響してきます。半血兄弟とは疎遠でほとんど付き合いがな  かったそうです。これは「まずいな」と思いました。

 「どこの馬の骨か分からない奴に任すことなどできるか」と言っていた半血兄弟の長男ですが、最後は誠意が通じ、心をひらいてくれました。そして奥様の相続は無事に終了しました。

ところがやっかいな問題が残りました。マンションは亡くなったご主人との共有になっています。まだ、相続手続きをしていません。この相続を処理しなければマンションは売却できません。

相続人はご主人の兄弟姉妹が6人で全員が北海道に住んでいます。ご主人が亡くなった瞬間に3/4が奥様に移っており、相続人は全部で10人です。奥様側の兄弟はAさんに譲り、相続分を放棄しましたが、ご主人側の兄弟は全員が相続分を主張してきました。

Aさんが共有持分を取得し、代償金をご主人の兄弟に払うことで話はまとまりました。あとはマンションを売却し一件落着です。

カモはスイスイと優雅です。が、外から見えぬ水面下では激しく足を動かしています。相続実務もさりげなく見えます。しかし、外から見えぬ水面下では多くのエネルギーを消耗します。

案件が無事完了した時は、近くのそば屋で充実感と疲れが混じった身を癒します。この時に一人飲むお酒の味は格別です。

教育

学校の再建はまず紙屑を拾うことから・・・。
次にはクツ箱のクツのかかとが揃うように。
真の教育は、こうした眼前の瑳事からスタートすることを知らねば、
一校主宰者たるの資格なし。
[ 森信三 一日一語 ] より

信とは、いかに苦しい境遇でも、
これで己の業が果たせるゆえんだと、
甘受できる心的態度をいう。
[ 森信三 一日一語 ] より

これを持っている人はぶれません。

 

名・利

名・利というものは如何に虚しいものか。
しかも人間はこの肉の体の存するかぎり、
その完全な根切りは不可避といってよい。

[ 森信三 一日一語 ] より

「名・利」は虚しいものですが、
どこかで、しがみついてしまいます。

常識と法律 中條レポートNo249

遺言とは
「相続人の間に不平等を持ち込む仕事」
と先月号で書かせて頂きました。その理由の補足です。

 相続実務に携わるとき戒めている言葉です。
「法律と常識が一致するとは限らない。そして常識は法律に勝てない。
法律のなかで生じたもめ事は法律で解決すればよし。
ところが多くのもめ事や問題は常識の中で生じている。
常識の中で生じたものを法律で解決すると心にシコリが生じる。
この認識を持つことは実務家として大切」

「常識の中で生じたもの」とは下記のようなことです。
親の面倒を献身的にみた長男と、そうでない次男がいる。
親は長男に多く財産を相続させたいと思う。

次男が「お兄ちゃんは親の面倒をみたのだから、財産さくさん相続しなよ」
と言えば、常識の中で解決するのでシコリは残りません。しかし次男が二分の一欲しいと主張すれば、法律が勝ちますので次男の言う通りとなります。

上記の問題を「法律で解決する」とは、
生前に親が長男に多くの財産を相続させる遺言書を書くことです。
遺言を作成すると「心にシコリが生じる」ことがあります。

だから、我々アドバイザーは
「相続人の間に不平等を持ち込むが不公平であってはならない」※
こと常に念頭にいれ、公平な遺言書作成のお手伝いを心がける必要があるのです。それが「心のしこり」を少しでも和らげることになるからです。
アドバイザーの役割が重い所以です。

※平等と公平の違い:お年玉をあげる場合、小学生、高校生、大学生に同じ金額を渡すのが平等。年齢に応じて金額を変えて渡すのが公平。

相続と三尺箸 野口レポートNo305

「地獄でも極楽でも、食卓にはたっぷりのご馳走が用意されている。ただし、どちらの住人も、三尺(約90センチ)の箸を使って食べなければならない。地獄の住人は、先を争って長い箸で口に入れようとするが、届くはずもなく飢えてやせ細る。

極楽の住人を見れば、長い箸でご馳走をつまみ、向い合う人の口に、どうぞと食べさせている。互いに与え合い、楽しく満ち足りた心持ちで暮らしている。」三尺箸と呼ばれる仏教説話です。

◎この三尺箸を相続に置き換えてみました。

『食卓には親が残した、たっぷりのご馳走(遺産)が用意されている。相続人は、三尺の箸でこのご馳走を食べなければならない。

ある相続人は、親が残してくれたご馳走は「当たり前」だと思っている。感謝の気持ちなど全くない。先を争って長い箸で口に入れようとするが、届くはずもなく身も心も荒んでくる。

 ある相続人は、親が残してくれたご馳走は「ありがたい」と思っている。感謝の気持ちがあるから譲ることができる。

長い箸で他の相続人に、どうぞと食べさせてあげる。こちらが譲るから、相手もどうぞと食べさせてくれる。互いが譲り合うから、楽しく満ち足りた心持ちになり、幸せに暮らすことができる。』相続の三尺箸と呼んでいる野口説話です。

我欲で三尺箸を使ったら、相続人は幸せになれません。まして奪い合ったら、兄弟姉妹の縁は切れてしまいます。相続が原因で切れた縁は、元に戻ることはありません。

ところが、長い間切れていた兄弟姉妹の縁が、相続をきっかけとして元に戻ることが稀にあります。

父親が亡くなり長女(Aさん)から相続手続きの依頼を受けました。遺産は預貯金と自宅です。相続人は母親と子どもが4人です。

相続人の一人である弟は、30年間行方不明です。一人でも欠けたら相続の手続きはでません。疎遠になった原因は弟にあり、すでに兄弟姉妹達は縁を切っているとのことでした。

戸籍を追うと弟は広島にいることが判明しました。弟に相続人である旨の手紙を出しました。広島から電話が入りました。母親と同居し世話をしているAさんが遺産を相続することで、他の相続人とは、すでに合意していることを弟に伝えました。

 数回のやり取りのあと、弟は気持ちよくハンコを押してくれました。弟の対応を知ったAさんは、昔のことは忘れると言ってくれました。互いが、三尺箸を上手に使ったのです。

 相続手続きも終わり、Aさんに広島へお礼の電話を入れてくれるようお願いしました。弟はとてもよろこんでくれたそうです。Aさんは他の兄弟とも相談し、弟を父親の一周忌に呼ぶそうです。

不思議な力を感じることがあります。兄弟姉妹の縁が戻ったのも、亡き父親が導いてくれたような気がしてなりません。