縁は求めざるには生ぜず。
うちに求める心なくんば、
たとえその人の面前にありとも、
ついに縁を生ずるに到らずと知るべし。
[ 森信三 一日一語 ] より

相続実務にAIが果たす役割 中條レポートNo285

AI(人工知能)の進化により、相続実務の現場でもその活用が進んでいます。業務の効率化や精度向上に寄与する一方で、現時点では課題も少なくありません。本稿では、相続実務におけるAIの便利な点と問題点を整理し、今後の可能性について考察します。

AIの便利な点
・簡単な知識の確認に役立つ
相続に関する基本的な知識を確認する際、AIは非常に便利です。特に音声入力による質問が可能なAIツールを活用すれば、手軽に疑問を解消できます。

・文書のチェック機能が便利
相続実務では、お客様や関係機関に提出する文書の正確性が求められます。AIの文書チェック機能を活用すれば、誤字脱字の修正だけでなく、文章の明瞭性や適切な表現のアドバイスを受けることも可能です。

AIの問題点
・複雑な問題事例への対応が不十分
AIは簡単な知識の確認には適していますが、個別の相続事例に対する正確な回答を求めるのは難しいのが現状です。専門的な判断が必要な場面では、AIの回答が必ずしも正確とは限りません。

・根拠が不明確な回答が多い
AIが出す回答の中には、根拠が明示されていないものも多くあります。そのため、問題事例をAIに質問する際は、単独のAIの回答を鵜呑みにせず、複数のAIツールで確認し、根拠となる公的なホームページや専門文献を読むことが重要です。さらに、それでも確信が持てない場合は、専門家の意見を仰ぐ必要があります。

最も重要なのは「AIの回答をそのまま信じないこと」です。信頼できる根拠が示された場合のみ活用し、それ以外はあくまで参考情報として扱うべきです。

AIの今後と相続実務への影響
現在のAIには問題点があるものの、相続実務において有効活用できることは間違いありません。すでに「AIなしでは業務が成り立たない」と感じる場面も増えています。

AI技術の進化により、将来的にはより正確な法的判断が可能になり、活用の幅が広がりAIのさらなる発展が相続実務のあり方を大きく変えていくでしょう。

本質を見抜く視野と思いやり 野口レポートNo341

ご主人に先立たれ、第3相続順位の代襲相続人が12人いるAさんの相続を前回お話ししました。Aさんは私の事務所の前をご主人と一緒にいつも通っていたそうです。そして一度ここへ相談に行かなければと、ふたりで話をしていたとのことでした。

ところが法律事務所だと思い込んでしまい、敷居が高いのではないか、相談料も取られるだろうと入るのを躊躇していました。そうしているうちにご主人が亡くなってしまいました。

弊社には敷居などありません、相談は何回でも無料です。最近は相続だけでなく福祉の相談もあります。誰もが気軽に入れる相続と福祉の相談室として地域に貢献できれば存在価値が出てきます。

生前に相談にこないで運が分かれる人もいます。無料相談の看板がAさん夫婦の目に入らなかったのが悔やまれます。

相続相談は一般には馴染みがなく足が向かないのが現実です。生前に相談を受ければ可能なことも、認知症の発症や相続が開始してしまってからではできることは限られてしまいす。

子のいないAさん夫婦の状況を聞いた専門家なら、誰もが遺言の作成を提案してくれたと思います。そして全財産は円滑に相続でき、Aさんは辛い思いをしなくて済んだはずです。相談は相続が開始する前か後かでは、時には天と地の差になることもあります。

無料相談だけで問題が解決してしまうことも少なくありません。

Bさん(45才独身長女)からの相談です。父親が亡くなり相続人は母親とBさんです。主な財産は自宅で相続税の課税はありません。

母親は末期ガンで医師から余命を告げられている、相続手続きは10か月以内と言われた、期限は迫ってくる、相続など初めての経験で、何もわからず毎日モンモンしているとのことでした。

無責任な知識や情報に惑わされてしまう人もいます。助言をした人は相続税申告期限(10か月以内)と、相続手続きを混同していると思われます。この相続に相続税申告義務はありません。

話を傾聴してみると、遺産の預金はすぐには必要ない、Bさんの目的は自宅に住み続けることができればとのことでした。

「このままにしておくこと。相続のことなど考えないで母親のお世話に集中し、心静かに旅立ってもらうこと。母親が亡くなった後に両親の相続手続きをすること。」これが私のアドバイスでした。

このままでは自宅は母親とBさんの未分割共有状態になります。だが、自分が住んでいる分には何の支障もありません。

つい法律や税金や財産に目がいってしまいがちです。が、いかに母親に穏やかに旅立ってもらうか、ここがこの相続問題の本質です。

法律相談と心が絡む相続相談とは別ものです。相続相談は問題の本質を見抜く冷静な視野と思いやりが必要です。

1時間ほどの面談でしたが、Bさんは入ってきた時とは別人のような安堵の表情を浮かべ帰られました。