相続登記義務化の現実と対応 中條レポートNo290

令和6年4月から、相続登記が義務化されました。具体的には、不動産を相続した方は、相続があったことを知った日から3年以内に相続登記を行わなければなりません。

違反すると10万円以下の過料が課されるとされています。しかし、現時点で法務省がどの程度本気でこの規定を運用するのか、実際のところは不透明です。

もっとも、背景には所有者不明土地問題が深刻化している事情があります。登記がされないことで土地の権利関係が不明となり、公共事業や民間取引に支障が出る事例が多発しています。

こうした問題の解消を目的として制度が整備された以上、一定の周知期間を経て、実際に過料を科す運用がなされる可能性は高いでしょう。

ただし、仮に過料の対象となった場合でも、いきなり罰金が課されるわけではありません。通常は法務局から「催告」がなされ、それでも履行しない場合に初めて制裁が検討される運用が想定されています。

したがって、催告を受けてからでも相続登記を行えば、過料を免れることができます。また、相続登記にはもう一つ選択肢があります。
遺産分割が困難な場合。名義変更を急ぐ事情がない場合(亡くなった父親名義の家に母親が住んでいて、母親が亡くなってから子供たちで相続登記をすればよい。等々)「相続人である旨の申出(相続人申告登記)」を行うことで義務を履行したとみなされます

この付記登記は登録免許税がかからず、経済的負担も軽減される利点があります。実務上も有効な方法の一つといえます。

なお、未登記の建物は世の中に多数存在します。建物の保存登記も本来は義務ですが、これまで過料が課された事例はほとんど耳にしません。

これらの点を踏まえると、制度としては厳格化されても、実際にはある程度柔軟に対応がなされる可能性があります。

「相続登記を行わなければならない」
ということを心配するのではなく、状況に応じて適宜対処することが重要です。
義務化という言葉に過度に恐れる必要はありません。

相続税の3区分 野口レポートNo346

相続税には大きく分けて3つの区分があります。相談を受け、この相続はどの区分に該当するのかを最初に判断します。

《相続税が課税されない人》
自宅の土地は25坪の建売住宅です。他に不動産は所有していません。預貯金などが1500万円です。相続人は配偶者と子が2人です。一般的なサラリーマン家庭の財産と家族構成です。

相続税基礎控除以下なので課税はありません。自宅の相続登記に必要な司法書士をセットすれば他の士業は不要です。あとは遺産分割のサポートと預貯金の解約が主な手続きです。遺産分割に法的期限はありません。しかし速やかに終えることが望ましいです。

聞き取り調査で遺産の預貯金残高には注意が必要です。多くの人は親が亡くなった時点で記載されている通帳残高が預貯金残高だと言ってきます。が、鵜呑みにしてはいけません。父親の預金が妻や子の通帳へと移されていることもあります。これは父親の預金(名義預金)とみなされます。もし無申告贈与ならば時効が成立していたら無罪放免です。なお名義預金には時効はありません。あくまでも父親の預金として遺産に取り込まれます。名義預金か、時効の成立した贈与なのか、この判断は税理士先生も悩ましいところです。ここが確認できたなら3区分が確定します。

《申告をすることで相続税が課税されない人》
相続税には特例があります。そのひとつに自宅敷地を配偶者や、同居の相続人(子)が相続した場合や、同居していなくても自分達の家を所有(俗に家なき子)していない子が相続した場合は、要件を満たせば自宅敷地330㎡までは、80%評価減の相続税大バーゲン(小規模宅地の特例)を受けることができます。

小規模宅地の特例を受けることで自宅敷地の評価がガクンと下がり相続税の課税はありません。ただし、特例を受けるには相続税の申告が必要です。よって税理士の報酬は必要となります。

《相続税が課税される人》
典型的なのは地主さんです。ここで一番の問題は地主の財産構成です。土地等の不動産が占める割合が多く、現金預貯金の割合が少ないのが現状です。相続税は相続開始10か月以内に現金一括納付が原則です。物納や延納は制度としては残っていますが、使い勝手が悪すぎて、実務にはなじみません。私も20年ほど前に1回だけ物納に関わりましたが、それ以降はありません。

 地主相続は、いかに土地を換金し億単位の納税資金を捻出するかに尽きると言っても過言ではありません。税理士、司法書士、土地家屋調査士などの専門職に加え、信頼できる不動産業者が必要です。

また地主の相続対策は、①現金一括納付が円滑にできるよう納税対策、②遺言作成などの遺産分割対策、③最後に相続税を減らす節税対策です。この順番を間違えないことです。

人間の生き方には何処かすさまじい趣がなくてはならぬ。
一点に凝集して、まるで目つぶしでも喰らわすような趣がなくてはならぬ。
人を教育するよりも、まず自分自身が、
この二度とない人生を如何に生きるかが先決問題で、
教育というのは、いわばそのおこぼれに過ぎない。
[ 森信三 一日一語 ] より

自伝

人間は何人も自伝を書くべきである。
それは二度とないこの世の「生」を恵まれた以上、
自分が生涯たどった歩みのあらましを、
血を伝えた子孫に書きのこす義務があるからである。
[ 森信三 一日一語 ] より

ハガキ

論語の「朋あり遠方より来る。亦楽しからずや」とは、
現在では用のないのに同志のハガキが届くことではあるまいか。
つまり、今日では、友の代りにハガキの来る場合の方が遥に多いわけです。
[森信三一日一語より]

 

幸せ

如何にささやかな事でもよい。
とにかく人間は他人のために尽くすことによって、
はじめて自他共に幸せとなる。
これだけは確かです。
[ 森信三 一日一語 ] より

相続と「10年」ルール 中條レポートNo289

近年の相続法の改正により、「10年」という期間が重要な意味を持つようになりました。相続に関係する制度は複雑に見えますが、基本的なルールを理解することで、将来のトラブルを防ぐことができます。今回は、この「10年ルール」のポイントを分かりやすくご説明します。

■ 相続法の改正で「10年」が分かれ目に
令和元年の民法改正により、相続開始後10年が経過すると「寄与分」や「特別受益」の主張ができなくなりました。

たとえば、長年、親の介護をしてきた相続人が、「自分には寄与分がある」と主張する場合。

生前に他の相続人が多額の贈与(特別受益)を受けていたことを考慮して、遺産を公平に分けたい場合

これらはいずれも、相続開始から10年以内に主張しなければなりません。10年を過ぎると、こうした公平調整の請求は法律上認められなくなります。

■ 遺留分請求でも「10年前」までが限界
遺留分とは、相続人の最低限の取り分です。遺言などによって不公平な分け方がされた場合でも、遺留分を侵害された相続人は一定の金額を請求できます。

しかし、このとき相手の受けた「特別受益」(生前贈与)を主張して取り分の調整を求めるには、原則その贈与が相続開始前10年以内のものでなければなりません。

つまり、「10年以上前に渡された贈与」については、他人の特別受益としては考慮されないのです。

■ 自分が受けた特別受益は10年を超えても対象に
一方で、自分自身が受けた贈与については、何年前であっても「特別受益」として持ち戻して計算される可能性があります。たとえば、20年前に親から住宅購入資金をもらっていた場合、これも遺産分割の際に考慮されることがあります。

つまり、他人の贈与には期限があるのに、自分の贈与には期限がないという、少し不公平に感じるかもしれませんが、これが現在のルールです。

■ 相続税では「7年」が持ち戻し期間
税法上も注意が必要です。令和6年の相続税法改正により、生前贈与が相続税の課税対象に戻される期間が延長されました。以前は「3年以内」でしたが、現在は**「7年以内」**の贈与について、相続財産に加算されることになりました。

したがって、贈与によって相続税を軽くしようと考えても、7年以内の贈与は原則として相続税の計算対象となります。

■ おわりに
このように、民法と税法でそれぞれ異なる「年数のルール」が存在します。
民法:10年で権利主張に制限
税法:7年で課税対象に持ち戻し

贈与や相続に関しては、「いつ」「誰に」「どのような目的で」行ったかを記録しておくことが重要です。制度の理解と早めの対策が、将来の相続トラブルを未然に防ぐ鍵になります。

借地の建物登記は必須 野口レポートNo345

借地借家法が適用される土地賃貸借契約には大前提があります。それは「建物所有を目的とする」こと、「建物所有者と借地契約者が一致している」ことです。資材置場や駐車場のような土地賃貸借契約は、借地借家法の適用はなく、契約にもとづき事前に通告しておけば土地を明け渡してもらうことができます。

以前ある地主さんから相談を受けました。地方(栃木)にある土地を資材置き場として貸してあるが、無断で上げ床を作られてしまった。このままにしておいてよいのかとの相談です。

栃木まで現状を確認に行きました。土地の中央に上げ床があり、柱まで立っています。屋根をかけられ壁で囲まれてしまったら建物とみなされる可能性があります。まずいことに契約書は「建物所有を目的とする」との記載がある市販の土地賃貸借契約書を使っています。構築物が建物とみなされ借地借家法が適用されてしまったら、簡単には出ていってもらえません。

幸いに借主が悪質な人ではなく、土地賃貸借の知識に欠けていたがためであり、数回のやりとりのあと撤去してくれました。

遠隔地の不動産は目が届きません。地場の不動産業者に管理を委託しておくか、隣の住人へあいさつし、盆暮れには中元歳暮を贈っておくことです。もし何かあったら電話をくれるでしょう。

借地権の登記は地主に協力義務がないため普通は登記をしません。登記がなければ借地人の権利は不安定となります。地主が底地を第三者に売ってしまったら、借地人は新たな土地所有者に借地権を対抗(主張)できません。出ていけと言われたら、家を取り壊し出ていくしかありません。それではあまりにも理不尽です。そこで借地上の建物を登記することを対抗要件とし、新たな土地所有者に対し借地権を主張することができるのです。借地人にとって建物の所有権保存登記は必須です。

相続で建物が未登記であることもよくあります。当然に登記簿謄本はありません。遺産分割協議書には固定資産税の物件表示を明記し、未登記であること、〇〇年度固定資産税評価証明書記載の通りと添え書きしておくとよいでしょう。

借地上の建物が未登記なのは、あまりに無防備で怖いことです。借地人には登記の必要を説明し、土地家屋調査士を紹介しています。

相続での借地取得の名義変更承諾料は不要です。が、地主への礼儀として、手土産に相続登記を済ませた建物登記簿謄本の写しを添えて、借地を相続したことを伝えておきましょう。

親の借地の底地を子が買い取りました。税務署へ所定の届け出を怠ると贈与税が課税されます。また、親の借地上に子名義の家を建てました。地主の承諾を得なければ、親から子への借地権無断譲渡となってしまいます。借地権の法務や税務は複雑です。対応を誤らぬよう、実行する前に専門家に相談をすることが大切です。