遺産分割は法定相続分の時代へ 野口レポートNo301

民法では相続人になれる人と相続分が決められています。法律で決まっているのなら、法律通りに確定してしまえば済む話です。相続争いなど発生する余地はありません。

ところが遺産分割協議で相続人全員が法定相続分で合意する必要があります。また相続人全員が合意したならば、どんな分け方をしても有効となるからやっかいです。

遺産分割協議が成立しなければ、家庭裁判所へ調停申し立てをします。調停が不成立となれば審判(裁判)に移ります。

審判官(裁判官)は、全ての事情を総合的に考慮し判決を出しますが、法律で決まっている法定相続分を変えることはできません。

父親が亡くなりました。相続人は母親を看取り父親を介護した長男、借金(ギャンブル)の肩代わりをしてもらい、勘当状態になっている二男、嫁いでいる長女の3人です。

49日の法要も終わり、次は遺産分割協議です。疎遠であった二男がこの時ばかりとやってきました。長男は両親の世話や介護への寄与と、本家としての墓守や親戚付き合いを考慮し、本家に厚めの分割案を提案しました。長女は兄の提案にしたがいました。親の見舞いにもこない、葬儀にもこなかった二男が法定相続分(1/3)を主張し譲りません。遺言がなかったことが悔やまれます。

遺産分割協議はまとまらず、家庭裁判所の調停から審判に移りました。通常の親の介護では長男の相続分を増やすことはできません。見舞いや葬儀にもこなかったと、二男の相続分を減らすこともできません。常識と法律は違います。そして常識は法律に勝てません。長男には不本意ですが二男の法定相続分は確定するでしょう。

何代も続いてきた旧家なら、家督相続思考が文化として残っており、本家以外が法定相続分を主張することはまずありません。が、普通の家庭では、揉めるのはいやだし、相続は平等だから法定相続分との言葉が、違和感なく出てくるようになりました。

1980年頃、「新人類」と言う言葉が流行りました。従来とは異なった感性や価値観、行動規範を持った若者のことです。

その若者達も親が亡くなり、相続人の立場になる歳になりました。異なった感性や価値観、行動規範を持った相続人の出現です。この年代は権利意識が強く、義務をはたさなくても権利だけはしっかりと主張してきます。

審判官ですらできない、法定相続分を変えられる人が一人だけいます。それは被相続人となる人です。方法は遺言です。法定相続は平等相続です。平等のなかに不平等(公平)を持ち込むのは遺言にしかできません。近年、遺産分割は法定相続分との考えが増えてきています。法定相続が当たり前の時代がくるかもしれません。

法定相続は平等ですが公平とは限りません。これからは相続で公平を保つ唯一の方法である遺言の必要性が増してきます。

思索と行動

一体どうしたら思索と行動のバランスがとれるか。
第一に、物事をするのをおっくうがらぬこと。
第二に、つねに物事の全体を見渡す智慧を・・・
第三に物事の本質的順序を誤らぬこと。
そしてこれらの凡てを総括して行動的叡智という。
[ 森信三 一日一語 ] より

因果

因果というものは厳然たる真理です。
それゆえ如何にしてかかる因果の繋縛を超えるか。
結局はその理を体認透察することであるが、現実には後手に廻らぬこと。
つまり常に先手、先手と打ってゆくことである。
[ 森信三 一日一語 ] より

因果は真理なんですね。

手紙

人間の書く物の中で、
読まれることの一番確かなものは「手紙」である。
それ故できたら複写紙で控えをとっておくことは、
書物を書くのと比べて幾層倍も大事なことといえよう。
[ 森信三 一日一語 ] より

森信三先生発案お複写ハガキ。
続けています。

覚悟

九十九人が、川の向う岸で騒いでいようとも、
自分一人はスタスタとわが志したこちら側の川岸を、
わき眼もふらず川上に向かって歩き通す底の覚悟がなくてはなるまい。
[ 森信三 一日一語 ] より

「有効」「無効」 中條レポートNo244

「法」は不思議です。
当事者同士がお互いに納得して合意しても効力が無い場合があります。
相続に関する合意が有効になる場合とならない場合をみてみましょう。

〇「有効になる」場合。
本人死亡後の相続人全員での遺産分割協議書。
これは有効です。
たとえ法律(民法)で定められた相続分(法定相続分)でない分け方でも、相続人全員が合意し署名捺印すれば有効に成立します。

〇「効力がない」場合。
本人死亡前の推定相続人全員での遺産分割合意書。
お父様が自分の死後の財産分けを子供たちの了解のもとに行いたいと考えました。
そこで、子供たちを集め、自分が亡くなった後の遺産分割合意書に署名・捺印(実印)してもらいました。

お父様が死亡後、合意書の通りに分割できるでしょうか?
子供たちが全員、生前に合意した内容で了解すれば可能です。
しかし、一人でも反対者が出たら合意した通りにはなりません。
合意した効果をもたせたいのなら、子供たちが了解した内容で、お父様が遺言書を作成しておくことが必要です。

本人死亡前の相続放棄も効力はありません。
本人の「財産を受取らない」「負債も負わない」ことを有効に成立させるためには、相続人は本人死亡後に家庭裁判所に相続放棄の申立てを行い認めてもらうことが必要です。(本人死亡後でも家裁の審判がないものは負債に関する効力はありません)

一方、本人死亡前でも、遺留分の放棄は認められます。
遺留分の放棄とは、本人が全ての財産を長男に相続させると遺言をし、二男には遺留分を請求しないと約束させることです。但し、家庭裁判証の許可が必要になりますので、相続人間で合意しただけでは効力はありません。

このように、法律や判例をもとにケース毎に「有効」「無効」が変わってきます。「これで大丈夫」自分だけの判断で安易に実行しないことが大切です。

正義と腹八分目 野口レポートNo300

「腹八分に医者いらず」満腹まで食べず、八分目、七分目ぐらいにしておくと、健康を保ち医者の世話にならないとの話です。

腕に違和感をおぼえました。見ると一匹の蚊がとまっています。腹いっぱい血を吸ったとみえ、まるまると膨らんでいます。重くて飛ぶことができません。ポトリと下に落ちつぶされてしまいました。満腹でなく腹八分目にしておけば助かったものを……。

相続問題や借地借家問題は話がこじれてしまうと、弁護士に依頼し法律で裁かなければ解決できない場合があります。弁護士にお客様を紹介するときは次のことを考えます。

◎飛び込みや、知らない人には地域の弁護士会の電話番号を教えてあげます。パートナーの弁護士は私を信用し、どんな案件でも断わらずに引き受けてくれます。人を紹介することは自分が保証していることを意味します。案件とお客様をよく吟味し紹介します。

◎依頼者側に正義があるのか、弁護士を紹介する前に一番大切なことは、ここを見極めることだと思っています。

◎丸投げをしない。弁護士は法律のプロ中のプロです。依頼者は素人です。どうしても段差が生じます。面談の時は必ず同席しサポートします。依頼者も安心し話が円滑に進み、弁護士も仕事がやりやすくなります。結果として依頼者の利益につながります。

依頼者側に正義があるか、満腹でなく腹八分目でよしとできるか、ここは大事なところです。あとは長年の経験と雰囲気で勝てるかどうか分かります。敗戦処理は別として、ここを判断し弁護士に紹介すれば依頼者が勝利する確率は高いでしょう。

飲食店を35年続けているAさん夫婦がいます。夫婦も高齢となりました。建物も老朽化してきており、家主は建替えを考えています。建築会社の営業マンが来て立退きを迫られました。

相手は立退きのプロです。夜討ち朝駆けで迫ってきます。夫婦は精神的に追い込まれ相談に見えました。素人のAさんでは対応は無理です。弁護士にお願いするのがベストと判断しました。お客様を弁護士に紹介した時は、丸投げでなく最後までサポートします。

Aさんは35年間一度も家賃を滞納したことはありません。家主には立退きの「正当事由」がありません。正義はAさんにあります。夫婦は私のアドバイスを聞いてくださり、立退料も腹七分目でよしとし短期間に立退きを合意することができました。

それから2年が過ぎコロナ禍です。飲食店は時短を強いられお酒の提供もできません。立退料を満額取ろうと欲を出し、営業を続けていたら、コロナで廃業せざるをえなかったと思います。借主から賃貸借契約の解除を申し出たら一銭も要求できません。

正義はAさんにあったこと、早い決断と腹七分目でよしとしたことが勝因でした。コロナになる前でよかったです。立退料はAさん夫婦にとって老後の貴重な糧となるでしょう。

人間関係・・・与えられた人と人との縁・・・をよく噛みしめたら、
必ずやそこには謝念がわいてくる。
これこの世を幸せに生きる最大の秘訣といってよい。
[ 森信三 一日一語 ] より

ご縁。
大切にしたいです。