人生100年時代 中條レポートNo240

70代はまだまだ若い。日々の相続や後見業務で感じることです。
今、まさに「人生100年時代」がおとずれようとしています。

人生100年時代で心配になるのが意思能力の衰えです。
「自分は認知症にならない」
と思っている方は多いのではないでしょうか。しかし、高齢者の認知症割合を見ると他人事ではありません。

認知症になり判断能力が衰えると「預金が引き出せない」など法律行為が出来なくなります。日常生活にも支障をきたし、本人らしく生きることが阻害されます。

遺言は死後の財産承継がスムーズにいかなくなることを心配して作成します。
このことを心配する人が生前の意思能力対策を心配しないはずはありません。

心配しないのは、起こりうるリスクに気が付いてないだけです。気が付けば、必然的に認知症対策を行うでしょう。
なぜならば自分自身が生存している時に起きる問題だからです。

ではどのような対策があるのでしょうか。

元気な内であれば、任意後見契約、民事信託、贈与等々、様々な方法があります。適正な方法を選択、もしくは併用し実行していきます。
肝心なのは何が本人にとって必要なのかを長期的に見る目と、状況の変化に合わせたメンテナンス機能だと思います。

なにもしなければ法定後見制度の利用となります。
世間では法定後見は使いにくい制度だと言われています。これは「本人のために」を家庭裁判所が厳格に判断し運用するからです。
しかし「本人のために」を厳格に運用するから守られる人もたくさんいます。
ですから、意思能力が衰えたら家庭裁判所に後見人等を選んでもらうというのも選択肢のひとつではないでしょうか。

意思能力対策で最も重要なのは本人の意思尊重です。(本人のために行う)
ここがぶれると、100年生きることが喜びでなく、苦悩になるからです。
意思能力対策をアドバイスする人の理念が重要になります。
責任は重いです。

相続と所有者不明土地 野口レポートNo297

不動産登記簿を見ても、現在誰が持っている土地なのか分からない。所有者不明土地は全国の土地の20%を占めるそうです。

原因は相続登記の不備が最も多く、次は住所が変わっても住所変更の手続きをしていないことです。

遺産分割協議が整わなければ、土地も相続登記ができません。次から次へと枝分かれしていきます。

孫の子⇒     ひ孫・曾孫(そうそん)
孫の孫⇒     やしゃご・玄孫(げんそん)
玄孫の子⇒    来孫(らいそん)
来孫の子⇒    昆孫(こんそん)
昆孫の子⇒    仍孫(じょうそん)

ある土地と建物があります。すでに50年前には空家になっていたそうです。老朽化し屋根が落ちています。近隣住民の訴えで役所も放っておけず所有者の調査をしました。

所有者200人、93人が存命しており、相続登記をしないままに「来孫」まで枝分かれしています。

「全国の土地の20%が所有者不明土地である」この憂しき問題を何とかしなければと、民法・不動産登記法の改正法案が国会に提出されました。いくつか流れを紹介したいと思います。

◎土地の相続登記の申請義務化
相続によって土地の取得を知った者は、知った日から3年以内に登記をしないと10万円以下の過料が課せられます。また、所有者の住所が変更になった場合は、正当な理由なく住所変更から2年以内に登記の変更申請をしなければ5万円以下の過料が課せられます。

◎遺産分割に期限が定められる
現行民法には遺産分割に期限の定めがありません。何年経っても遺産分割協議が整わない、世間にはよくある話です。改正法が成立し施行されると、相続開始時から10年が経過し、遺産分割協議が整はない時は、遺産は法定相続分で強制分割されることになります。土地も法定相続分で登記されます。つまり遺産分割に10年の期限が定められることになります。

◎土地所有権の国庫への帰属が可能となる
土地の所有権は放棄することができません。この制度は結果として「土地を捨てることができる」画期的な制度だと思います。

一定の要件(物納要件に近い)を満たした土地の所有者は、その土地の所有権を放棄し国庫に帰属させることに対し、法務大臣の承認をもとめることができるようになります。相続でまったく価値のない土地(負動産)を所有し、困っている人はたくさんいます。この制度の創設が一筋の光になればよいのですが。

思いきった改正ですが、所有者不明土地が、国土の5分の1になるまで、放っておいた政府の対応はいかがなものかと思います。

貫く

われわれ人間は「生」をこの世にうけた以上、
それぞれ分に応じて、一つの「心願」を抱き、
最後のひと呼吸までそれを貫きたいものです。
[ 森信三 一日一語 ] より

貫ける信念をもち続けたいですね。

宙ぶらりん

すべて宙ぶらりではダメです。多くの人が宙ぶらりんだからフラつくのです。
ストーンと底に落ちて、はじめて大地に立つことができて、
安泰この上なしです。
[ 森信三 一日一語 ] より

宙ぶらりんは落ち着かないですね。

頼る

人間は何物かにたよったり、結構づくめな生活に慣れると・・・
要するに飼いならされると、いつしか自己防衛本能が鈍る。
[ 森信三 一日一語 ] より

頼っている内にしらず、しらず鈍ってきます。

雑事

日常の雑事雑用を、いかに巧みに、要領よくさばいてゆくか・・・
そうした処にも、人間の生き方のかくれた呼吸があるといえよう。
[ 森信三 一日一語 ] より

日々の行動が大切です。

死後事務委任契約 中條レポートNo239

人が亡くなった後に行う手続はたくさんあります。

死亡届に始まり、遺体の引取り、葬儀、納骨、知人への連絡等々多種多様です。
これらは通常は親族が行います。では親族がいない方、いても縁遠くなっている方は、自分が亡くなった後どうするのでしょうか。

 このような悩みに応えるため、生前に自分の死後の手続を第三者にお願い(委任)するのが死後事務委任契約です。

但し「私が死んだら、財産を○○に与えてくれ」というのは遺言で行うことです。死後事務委任契約では出来ないこともあることに注意です。

死後事務委任でお願いする代表的なことは
葬儀・納骨、納骨後のお墓の管理。住居の明渡し、家財の処分。医療費等の未払い金の精算。親族・知人への連絡。各種届出、公共料金の支払い停止。等々です。

 有用な制度ですが問題点もあります。

本人死亡後に行う手続ですので、当然本人はいません。また、委任してから死亡するまで時間があるため、実行性に問題が出ることもあります。

また死後事務委任契約は近時でてきたものです。
「死後事務委任の内容が遺言事項に抵触するか否か」等は事例の蓄積が少なく、実務上の判断が難しいことが多いのが現状です。

委任事項に相手方が応じてくれるか(相続人等しか出来ないと定めている事項も多い)も問題です。受任者では手続が出来ないこともあるからです。

また、手続をスムーズに進めるためには、相続人と協力して行うことも必要になります。本人が亡くなると、委任者の地位は相続人に移るため、受任者は相続人への報告義務があるからです。(但し、契約には相続人は原則・契約内容を変えられない旨を記載します。相続人が内容を変えることが出来たら、委任者の意図通りに出来なくなるからです)

独居高齢者が増えています。死後事務委任契約に対する需要も増えるでしょう。
「本人にとって何が問題になるのか」
総合的な視点から、制度利用の適否、利用するのであればどのような契約内容にするのかを提案し、心配無く暮らしてもらえるようにしたいものです。

お一人様と相続人 ➂ 野口レポートNo296

疎遠の相続人には3通りのタイプがあります。①亡くなった人とは面識もなく「遺産を頂く筋合いはないから」と相続分の放棄を申し出てくれる人。②代表相続人の提案をほぼ受け入れてくれる人。③権利意識が強く「自分も相続人である」と権利を主張する人。

遺産分割は全員が納得し、すんなり合意することなどめったにありません。何度かキャッチボールをして落としどころを探っていきます。苦労しましたが最後は何とかまとまりました。

遺産分割協議書は原本(全財産が記載)が人数分と、不動産登記用(不動産のみ記載)が1通、銀行用(預貯金のみ記載)が1通、全部で3種類作成します。

原本で相続登記をしてしまうと法務局に写しが残り、利害関係人は閲覧できてしまいます。

原本で銀行手続きをすると、その家の全財産を銀行にさらけ出すことになります。遺産分割協議書の原本はトップシークレットです。

不動産登記用の分割協議書は、相続登記ができるか、調印の前に事前に司法書士にチェックをお願いします。

銀行の預貯金の解約手続き等を円滑に行うため、Bさんが預貯金と全財産を1人で取得し、協議で決まった金額を他の相続人に代償金として支払う代償分割の形を取りました。

Bさん親子に上京いただき、いよいよ預貯金の相続手続きです。手続きに2時間以上かかることもあります。全部で7カ所を回ります。金融機関の相続手続きは肉体労働のようなものです。

必要な書類は私が一切揃えます。Bさんには銀行専用の依頼書に行員の指示にしたがって記入し、署名捺印をしてもらうだけです。私は隣に座って必要に応じてサポートします。

各銀行の手続きも円滑に進み、次は鬼門である某信金です。遺産分割協議書があるので、専用の依頼書は代表相続人1人の署名捺印で足ります。が、相続人全員の署名捺印をもらってくれと言われました。今度ばかりは譲れません。本部に聞いてくれと食い下がりました。本部の答えはそれでよしでした。

預貯金の解約も終わり、Bさん親子に再度上京いただき、最後は相続税の申告です。税理士と打ち合わせをし、あとは郵送と電話でやりとりしてもらい無事に相続税申告も終わりました。

他の相続人は何もしないで、ただ上からお金(代償金)が下りてくるのを待っているだけです。Aさんに子供や養子がいたなら、急逝しないで長寿を全うしたなら、もらえるお金ではありません。

まして疎遠の相続人には棚ボタ財産です。お一人様のAさんは兄弟姉妹に迷惑をかけたくないと、贅沢をせず質素な生活を続け老後に備えてきました。残された遺産は重いお金です。Aさんと動いてくれたBさん親子に感謝し、大切に使っていただきたいものです。

  おわり