相続の目的は相続人の幸せ 野口レポートNo262

Aさん夫婦は数年にわたり、寝たきりの父親を在宅介護しました。父親のベッドにはナースコールがついています。尿意や不具合があると真夜中でも夫婦の部屋のブザーが鳴ります。24時間介護を強いられている夫婦の苦労は並大抵のものではありません。

父親の主な財産は自宅の土地建物です。父親は「全財産を長男Aに相続させる」との公正証書の遺言を作成していました。
父親は亡くなり、相続人はAさんと姉と弟の3人です。姉は嫁入り支度など生前贈与を受けています。弟も住宅資金の援助を受けています。

弟は「兄貴や義姉さんが親父の介護をしてくれた。自分と姉は何もしなかった。住宅資金の援助も親父から受けている。遺言は納得したから相続手続きを進めてほしい。」とのことでした。

ところが姉は「私にも権利がある」と、遺留分を主張してきました。遺言を執行したら遺留分減殺請求をすると言っています。Aさんは困ってしまい私のとこへ相談に見えました。

遺留分減殺請求の内容証明は宣戦布告と同じです。届いた瞬間に兄弟姉妹の縁は切れてしまいます。Aさんには遺言を放棄し、遺産分割の話し合いで自宅を相続することをアドバイスしました。こちらが一歩譲ったので姉も半歩引いてくれました。払える範囲の代償金で決着がつき、姉との関係も切れることなく今に至っています。

私の相続セミナーを受講し感動したBさんが、この先生ならと相談に見えました。推定相続人はBさんと姉の2人です。親の財産は預貯金と自宅、借金付アパート数棟です。

姉は何を思ったか親を取り込み、全財産を1人で相続すると言っています。父親に遺言を作る意思はありません。
Bさんは親の財産は相続しなければと思い込んでおり、姉のことで深刻に悩み、憂いた日々をモンモンと過ごしています。

話を聞いてみると、節税対策が優先され納税対策が置き去りにされています。このままでは相続税が払えません。難度の高い相続処理となります。姉は欲が邪魔して現実が見えません。

Bさんには子供がいません。固有財産もあり奥様と生活していく分には事足ります。独り占めすると言っているなら、あげてしまえば……。
相続から離脱し、相続人でなくなってしまえば一切の煩わしさから解放されます。選択肢に相続放棄がなかったBさんは目からウロコです。

Bさんの表情は、見るみる穏やかになりなりました。揉める相続から離脱してしまい、自分達の幸せを守ることも立派な相続対策です。
長年「禅」の修行を続けている司法書士N氏の言葉です。「譲ることは⇒問題が頭から離れ離脱することができる⇒離脱できれば穏やかな心でいられる⇒だから幸せになれる。」大いに納得しました。

相続の目的は「相続人の幸せ」です。相続で不幸になってしまったら意味がありません。相続は幸せになってナンボの世界です。相続人の幸せを心から考え、その相続問題の本質を見極め、相続人を幸せの道へ導いて差し上げる。相続実務で一番大切なことです。

如何に生きるか

人間の生き方には何処かすさまじい趣がなくてはならぬ。
一点に凝集して、まるで目つぶしでも喰らわすような趣がなくてはならぬ。
人を教育するよりも、まず自分自身が、
この二度とない人生を如何に生きるかが先決問題で、
教育というのは、いわばそのおこぼれに過ぎない。
[ 森信三 一日一語 ] より

いつもの森信三先生とはちょっと違うような…..。
ぞくっとくる言葉です。
凄みを感じます。

天意

わが身にふりかかる事はすべてこれ「天意」・・・
そしてその天意が何であるかは、
すぐには分からぬにしても、
噛しめていれば次第に分かってくるものです。
[ 森信三 一日一語 ] より

天意がわかるようになりたいものです。

丁寧に聴く 中條レポートNo205

先日の相続アドバイザー養成講座「遺産分割の実務要点」で学んだ、遺産分割協議に携わるときの基本姿勢です。

「各相続人の話を丁寧に聴く」
丁寧に聴くとは、自身の価値観、良し悪し、善悪、知識、経験等の自己の行動、経験等を頭から外して聴くことです。
過去の事実の存否を明らかにし、認識するが、その善悪、正邪を判断せず、これからどうすればよいかという未来志向型で携わる。

相続争いの特徴は争っている相手が第三者でなく親族だということです。
子供たちのために遺した財産で、子供たちが争うことを望む親はありません。
また相続で争うと、兄弟姉妹の縁は戻らないことが多く、その影響で相続人の子供(従弟)同士の付き合いも無くなります。

そして最大の、悪影響は、親の相続争いを子供たちが見ていることです。
歴史は繰り返します。親が相続争いをすると、その子も、親の相続のとき、相続争いをしてしまいがちです。

相続争いの特徴は、それぞれの相続人は、自分が正しいと思っていることです。
そこに、感情が入ります。
しかし、正しいか否かの正解はあるのでしょうか。
正解が定かでないことを感情的に争うため、争いが長引き、縁が戻らなくなるのです。

相続アドバイザーの役割はんでしょうか。(弁護士以外は、説得・交渉は出来ません)
一つは、間違った知識(法律・税務・不動産に関すること、等々)で遺産の分け方を話し合っていれば、正しい知識に修正することです。

もう一つは、各相続人の話を「丁寧に聴くこと」です。
相続問題を解決する答えは、相続人の心の中にあります。
そこに気が付いてもらい、未来志向で話合いをしてもらうために聴くのです。

好んで争っている人はいません。
丁寧に聴くことが、解決の糸口を見出してくれます。

物でなく価値を売る 野口レポートNo261

お客様からの紹介でおばあちゃん(85歳)の相談を受けました。自宅の土地が、25年前に亡くなった父親名義のままなので、相続の手続きをしたいとのことでした。

相続人は妹が1人だけです。妹は姉が土地を相続することで気持ちよく遺産分割に協力してくれました。

司法書士をコーディネートし、相続登記をすれば済む問題と思われました。しかし、話を聞いていくうちに相続する土地上の建物は、おばあちゃんと別れた元夫の共有名義であることが分かりました。

おばあちゃんにはお世話してくれる人がいません。唯一血縁の妹も高齢でお世話はできません。頼りになるのは「お金」です。

1人暮らしが困難になったなら、相続した土地を換金し、老人ホームに入るのがベストです。しかし、土地の上には他人名義(元夫)の建物がのっています。このままでは売ることができません。話を傾聴していくと元夫は近くに住んでいるとのことでした。

元夫を訪ね事情を丁寧に説明し、建物の持分を元妻へ贈与してくれるようお願いしました。すでにわだかまりも消えており、贈与を承諾してくれました。固定資産税評価は低く贈与税の課税はありません。

これで土地と建物はおばあちゃんの単独名義となり、いつでも不動産を売却し老人ホームの入居費用に充てることが可能となります。

相続コンサルで一番大切なことは、一度頭から法律・税金・財産を外し、相手の幸せを心から考えてみることです。すると問題の本質が見えてきます。本質が見えれば何をすればよいかが分かります。

おばあちゃんへ幸せの道筋をつけることができたのも、話を傾聴したこと、相談者の幸せを心から考えたことです。問題を全て解決し、おばあちゃんから「神様だよ」と言われ手を合わせられました。

知人を介し相談を受けました。相談者は高齢(83歳)の女性です。

18年前に母親が亡くなりました。まだ相続手続きをしていません。相続人は56年間疎遠で父親の異なる妹1人とのでした。

遠隔地に住んでいる妹へ会いにいきました。妹(72歳)は姉が56年間連絡をくれなかったこと、母親が亡くなったのを知らせてくれなかったこと、誤解も重なり何をいまさらと立腹しています。孫の代まで憂いが残ると説得を重ね、何とか合意することができました。

だが姉には会いたくない、ハンコは押すから野口さん1人で来てほしいとのことでした。それではこの相続を引き受けた意味がありません。目的は相続を機に疎遠であった縁を取り戻してあげることです。

何とか妹を説得し、姉と一緒に遠隔地に出向きました。こちらがお姉さんですよ、こちらが妹さんですよ、と紹介しました。

56年目の感動の再会です。姉はこれまでのことを詫びました。わだかまりはとけ、署名押印も無事に終わりました。単に相続手続きで終わったら物を売っただけ、縁を戻したことで価値を売ったことになります。

物を売るか、価値を売るかでは大きな違いです。これからの時代、いかに付加価値を売ることができるかが勝負です。

達人の境

一、腰骨を立て
二、アゴを引き
三、つねに下腹の力を抜かぬこと
同時にこの第三が守れたら、
ある意味では達人の境といえよう。
[ 森信三 一日一語 ] より

なかなか難しいですね。

生き方

朝起きてから夜寝るまで、
自分の仕事と人々への奉仕が無上のたのしみで、
それ以外別に娯楽の必要を感じない・・・というのが、
われわれ日本人のまともな庶民の生き方ではあるまいか。
[ 森信三 一日一語 ] より

天から与えられた使命を果たすこと。
日本人の生き方。

選択肢 中條レポートNo204

相続問題を解決する方法は一つだけではありません。
選択肢があります。
相談者の話を傾聴し、問題の本質を見極め、解決方法を選択していきます。

選択するためにはアドバイザー自身が、選択肢があることを知ら(気付か)なければなりません。そして選んだ選択肢にはどんな注意点があるのかを把握し、選んだ方法を的確に実行していくスキルが必要です。(アドバイザー自身で実行出来ないときは、任せられる専門家がいるかが重要になります。一人で全ては出来ません)
正にアドバイザーの真価が問われるところです。

このことを遺言の相談の場面で見てみます。
財産を引き継ぐ方法は遺言だけではありません。選択肢は
・贈与。(贈与税の負担がある場合は相続時精算課税制度を利用)
・信託。(家族信託)
・養子縁組。(第一順位の相続人をつくる)
・売買。
・なにもしない。(法律に任せる)
・とりあえずの遺言にする。(要件が整ったら正式につくる)

 選択肢を選ぶための判断材料は。
・その方の遺言を作成する理由、背景。
・家族構成、家族の歴史。
・その財産が築かれたルーツ。
・財産をどのように承継させていきたいか。
・財産の種類、価値。(相続税の課税の有無)
・遺言者の意思能力の程度。
・その他。

選択肢を考慮せず、相談者の言われるまま実行してしまう。アドバイザー自身に最適な選択肢を実行するスキルが無い(頼める人がいない)ためその手段を選ばない。
このようなことがあってはなりません。

相談者を幸せに導けるかどうかは、アドバイザーの資質が大きく影響します。

走れメロス 野口レポートNo260

「メロスは走った、無二の親友セリヌンティウスとの約束を守るために、死力を尽くして走った。刑場に突入したとき、まさに陽は一片の残光を残し消えようとしている。」多面的な人間の心を描いた「太宰治」の小説“走れメロス”です。

私がこの物語に出合ったのは高校一年生の国語の教科書のなかでした。身はボロボロになりながら最後は約束を守ったメロス、友を信じ待ち続けたセリヌンティウス。約束を守ること、人を信じることの大切さを学びました。

この物語の感想文のコンテストがありました。感動し、「信じることは人間としての愛である」など、生意気なことを書いて最優秀賞に選ばれたことがありました。

高校時代は電車通学でした。友人と約束し駅で待ち合わせをしたものです。あるときいくら待っても友人がきません。約束の時間は過ぎています。電車を数本送ってギリギリまで待ちました。おかげで駅から学校まで駆け足です。

息せき切って教室に入ると、なんと彼がいるではないか、「待っていたのに。」私も少々立腹です。「悪かったな、好きな女の子がいたので前の電車に乗ってしまった。」そんなことで約束を破るとは……。卒業後、彼が活躍しているとの話は聞きません。

家内の実家は信州のお寺です。毎年8月の上旬には最大のイベント、「施餓鬼」の大法要があります。当日はたくさんの檀家さんがみえます。家内は手伝いに行くのが恒例になっていました。ご無沙汰しているので私も一緒に行ってまいりました。

住職の義父は90歳をすぎて現役です。真夏の昼下がり大法要が始まりました。多くの僧侶にかこまれ、途切れながらも読経を続ける老師(義父)の姿はとても尊く、合掌しながら胸に熱いものがこみ上げてきました。

家内を嫁にむかえるとき、義父とひとつの約束をしました。「娘を川崎へ嫁がせてよかったと、必ず思っていただけるようにします。」この約束は一度たりとも忘れたことはありません。

あれから35年(平成17年)、紆余曲折はありましたが天職にめぐり会うことができました。相続の実務家として世間からも認めていただけるようになりました。感動を与えられる講師にもなりました。“感謝の気持ち”と“譲る心の大切さ”一貫しこの理念をつらぬき、相談や依頼を受けた相続案件も、争いをさせることなく解決に導けるようになりました。

義父との約束をようやく果たせた気がします。遅い歩みでしたが、約束を守るべく努力を積み重ね今の自分がいます。それを信じ待っていてくださった義父がいます。1年後に他界しましたが生前に約束を守ることができ、本当によかったと思っています。

約束を守ること、信じることの大切さ、改めて感じました。