第3相続順位とその対応 野口レポートNo327

☆被相続人に子がいる。子が相続人となる第1順位の相続です。父母や祖父母の直系尊属や兄弟姉妹は相続人にはなりません。養子は実子と同じ権利義務を有します。

認知した非嫡出子も先般の民法改正で、実子と同じ相続分を有するようになりまた。

☆被相続人に子がいない。が、父母がいる。父母がいなくても祖父母がいる。これは父母等が相続人となる第2順位の相続です。

☆被相続人に子も父母や祖父母もいない。これは兄弟姉妹が相続人となる第3順位の相続です。兄弟姉妹が亡くなっていてもオイメイまでは1代限りで代襲相続人となります。

☆配偶者は、第1順位、第2順位、第3順位であれ、順位により相続分は違っても、常に相続人となります。

◎Aさんの伯母さんが亡くなりました。ご主人はすでに他界しており、子どもがいないので相続人は伯母さんの兄弟姉妹です。

5人のうち2人はすでに他界しオイメイに枝分かれしています。相続人はオイのAさんを含め全部で10人になります。

近くに住んでいるAさんが葬儀を仕切り、相続もまかされました。私が載っていたタウン誌を見て相談に見えたそうです。他の相続人からは一任を取り付けているとのことでした。

主な遺産は自宅の土地建物、それに預貯金が少々です。葬儀費用を差し引き、自宅売却の諸費用を見積もり、手取り残額を算出し代償金を決めます。相続人が兄弟姉妹の場合は残額を法定相続分で按分することが多いです。一度全ての財産をAさんが相続し、そのあと自宅を売却し他の相続人に代償金を払います。

Aさんが翌年に払う費用は、①譲渡所得税、②社会保険料等、③確定申告税理士報酬です。直近で払う費用は、④葬儀費用、⑤確定測量費用、⑥建物解体費用、⑦相続登記費用、⑧遺品処理費用、⑨土地売買仲介手数料、⑨相続アドバイザーへの報酬、⑩雑費です。

全ての段取りが整ったら遺産分割協議書に署名押印です。第3相続順位の相続は相続人が多く、しかも北海道から沖縄まで全国に散らばっていることがよくあります。

相続人全員が一堂に集まるのは不可能です。遺産分割協議書を人数分(10枚)つくり全員に送ります。署名押印し返送されてきた遺産分割協議書を10枚束ねて初めて効力が生じます。

遺産分割は多数決では成立しません。例え1枚でも署名押印がもらえなければ、受け取った他の9枚の遺産分割協議書は無駄になってしまいます。これがリスクです。

このリスクを避けるため、相続分譲渡証明書(有償でも無償でも可)をもらう方法もあります。返送されてきた8人の相続分は取りあえず自分の相続分として確保しておき、あとは相続分10分の9と10分の1での遺産分割協議になります。

円満相続の心構え 野口レポートNo327

財産に人の欲と心が複雑に絡んでくる相続は、どうしてもネガティブに考えがちです。今まで多くの相続に立ち会ってきましたが、人生いろいろ 相続いろいろ 相続人もいろいろです。

「明るく、楽しく、清々しく」そんな相続あるわけないだろうとお思いでしょう。が、そんな相続があることも知ってください。

以前に手掛けた2つの相続案件をご紹介したいと思います。

《その1》A家の相続です。父親はすでに他界しており、二男夫婦が母親の世話をし、最後を看取りました。二次相続の遺産は全て預貯金です。相続人は子である兄弟姉妹が5人です。

墓守をしている二男から「遺産は取りあえず自分が相続し、母親の供養に使いたい」との提案がありました。5人で分けてしまえば1人当たり、そんな大きな額にはなりません。

他の兄弟姉妹に異議は無く、全員が二男の提案を受け入れました。最初の法要は49日です、次は1周忌そして3回忌と続きます。

法要に出席する参加者は、交通費、宿泊費、飲み食いの費用は負担する必要はなく、身ひとつで参加します。費用は二男が相続でストックしている遺産から出します。この時ばかりは、5人の兄弟姉妹、子、孫、ひ孫までA家の一族全員が集まります。

法要後は寿司屋を貸し切って食べ放題で飲み放題です。ひ孫も大はしゃぎ、盛り上がる様子が目に浮かびます。一族の絆もさらに深まり、故人も雲の上からよろこんで見ていることでしょう。

全員が次の法要を楽しみに待っています。そして遺産を使い切ったなら通常に戻り、実質の「遺産分割」は終了します。まさに「明るく、楽しく、清々しい」相続ではありませんか。

《その2》次は旧家であるB家の相続です。これも二次相続での母親の遺産分割の話です。母親(配偶者)は一次相続でそれなりの預貯金を相続しています。相続人は子である兄弟姉妹が4人です。

長男が口火を切りました。「自分は父親の相続でそれなりに遺産を相続したので、今回は均分で分けよう。」それに対し二男が反論します。「均分はおかしいよ、兄貴は墓守や親戚付き合いなどもある、自分達より多く相続してほしい。」互いが譲り合い、結局は長男が半分取得し、残り半分を3人の兄弟姉妹が均分で取得することになり、話し合いはわずか30分で終了しました。

これも清々しい相続でした。終わった後お話しをさせていただきました。「ご両親は皆様を“感謝の気持ちと譲る心”を持った人間に育ててくれました。ありがたいことです。これは皆さんが相続した“何にも勝る無形の財産”ですよ。」思わず出た言葉です。

円満相続の心構えです。①素直であれば⇒感謝ができる ②感謝ができれば⇒譲ることができる ③譲ることができれば⇒円満相続ができる ④円満相続ができれば⇒幸せになれる。

これからがスタート 野口レポートNo326

野口塾の塾生に、福岡からくる女性のMさんがいました。難病を克服し、次は途上国に子ども達の学校を建てる夢の実現です。

もう1人は介護のエキスパートSさんです。モンブランの登頂や、今でも大型バイクに乗っているスポーツウーマンです。

8年ほど前、Mさんから「心臓を病んだ時の私と同じ仕草をしていますよ」と言われました。「時折咳き込んだり、無意識に背中をさすったりしている、1度診てもらってください」と先生を紹介されました。Mさんは数年前に心臓の手術をしています。

Mさんへ生返事を繰り返していると、突然Sさんが訪れ「私が予約を入れるので診察に行ってください」と、携帯を取り出しました。Sさんに背中を押され重い腰をあげました。

精密検査の結果は心臓の冠動脈が2か所狭窄しているとのことでした。このまま放っておくと「心筋梗塞」を起こすとのことです。

 「ステント手術」をしました。血管の内側は神経がないそうです。麻酔をしないので、カテーテルが、心臓に向かって血管のなかをズズと進んでいくのが分かります。ステントを2本入れました。

翌年に別の狭窄が見つかり、合計4本のステントが入っています。その後は快調です。もし「心筋梗塞」を起こしたら命にかかわることもあります。2人の塾生は命の恩人です。

地元にかかりつけの医院があります。先代のお父さん先生のころから長くお世話になっています。今は息子さんのY先生が1週間に数回時間を割いて診察してくれています。

心臓など循環器内科の名医です。某大学病院の特任教授と副院長も務めています。大学病院で教授先生に診てもらうのは大変なことです。それが地元で気軽に診てもらえる、こんなありがたいことはありません、患者さんは幸せ者です。

月1回は定期検診に行っています。いつも適切な診断で薬を処方してくれます。おかげで、血圧も正常、糖尿病もなし、血液検査も95点です。が、最近不整脈が出るのが気になるところです。

 お医者様には名医がいます。相続の世界も同じです。名医と普通の先生の違いは「見たて」です。素人にはその違いは分かりません。病気も相続も誰に診てもらうかで運がわかれます。

私も77才になりました。建物なら築年数77年です。あちらこちらが痛んでくるのは当たり前の話です。この歳になれば誰もが病気のひとつやふたつは持っています。病気を受け入れ、上手に付き合っていくことが長生きの秘訣ではないかと思います。

この仕事も来年で30年になります。勉強と経験を30年間積んできて、相続がようやく見えてきました。人間としても少しは成長し、これからが本当の意味でのスタートかも知れません。

Y先生のお世話になり、もう少し長生きし、1人でも多くの相続人を円満相続へと導くお手伝いができたならと思います。

すりこ木 野口レポートNo325

 「身をけずり 人に尽くさん すりこ木の その味知れる 人ぞ尊し」親戚の法事に呼ばれ、会食した日本料理屋さんのグラスのコースターに書いてあった言葉です。この言葉に感動し、コースターは持ち帰りオフィスの机の前に飾ってあります。

 相続は法律と経済(お金)に人の心が複雑に絡んでくる難しい分野です。時には「身をけずる」覚悟も必要です。

 ◎行きつけのすし屋の大将から、常連の地主さんが飲んで酔うと、相続をお願いしている会計事務所の愚痴をいうので、一度地主さんの話を聞いてやってほしいと紹介されました。

 土地が多く数億単位の相続税と推測されます。4か月が過ぎているのに、相続人の確定や相続税の概算すら出ていません。相続に精通している税理士にかえることを進言しました。

 公正証書遺言があるが、先妻の子の遺留分を大きく侵害しています。また、不動産を考慮せず作成されています。遺産のなかに広大な土地(300坪)があり、建物が筆界のなかに収まっていません。遺言通りに登記してしまうと、多くの建物が境界を越境してしまいます。この土地の中央に道はあるのですが、不動産登記簿をみると単なる宅地です。このままでは建築基準法の接道を満たさず、周りの土地には家を建てることができません。

 この土地を一度合筆し(遺産分割前の未分割共有状態ならできる)、利用の実態に合わせ分筆しなおし、それを遺産分割する必要があります。中央にある道(宅地)を整備し、位置指定道路(セットバックが必要)の認定を受ければ、多くの土地が建築基準法の接道を満たし、家を建てることができます。

 皆が納得してくれましたが、ある亭主が出てきて、下がると面積が減るとの理由で拒まれました。位置指定道路がなければ皆が困ります。大きな効果を考えればセットバックなど小さなことです。

私の説明に納得できないと、提案した資料を持って弁護士のとこへ相談に行きました。弁護士からは「ここまでやってくれる人などいないよ」と逆に諭されて帰ってきました。

 遺言を使ったらこちらは楽です。しかし先妻の子から遺留分の請求をされる、合筆と新たな分筆ができない、位置指定道路もできない、家が建たない、土地は二束三文となり一族は相続で不幸になってしまいます。何でこんな遺言を作ったのか理解できません。

 先妻の子も誠意ある対応に心を開いてくれました。パートナーの、税理士・土地家屋調査士・司法書士も自分の仕事を確実にこなしてくれました。提案通りに完了し、思い出に残る仕事になりました。

 相続は大小に関係なく、身をけずる思いをすることがあります。その味を知れる人もいます。が、味すら分からぬ人もいます。

 後日、チームを組んだパートナーと大将の店で互いの労をねぎらいました。難しい仕事をやり遂げたあとのお酒の味は格別です。

一日体験入隊 野口レポートNo324

野口レポートNO.36号(当時54歳)の復刻版です。

まだ駆け出しですが相続に特化した不動産屋として色々な相談を受けるようになりました。多いのが相続問題と借地問題です。この二つは法律と経済に人の心が絡んでくるのでよく似ています。

相続は10か月以内に、①遺産分割を合意する。②相続税の申告をする。③相続税を現金一活納付する。億単位の相続税が課税される地主は、これらの資金を調達する土地換金作業が要となります。

この土地をめぐり蜜に集まる蜂のごとく不動産ブローカーが寄ってきます。なかには己の利益を優先しようとする輩もいます。そして商売にならぬと見るや潮が引くように一斉に去っていきます。

不動産業に転業し5年となります。不動産業になれることは必要です。だが、染まりたくありません。「汗をかき報酬を頂戴する」この原点に戻り、自分を見つめたく体験入隊をしてきました。

入隊と言っても自衛隊ではなく、電気工事会社の友人にお願いして一日入社です。条件は日当をいただくこと、雇用関係が成立し遊びではなくなります。

お盆休みの12日、むかえのトラックに乗り現場に到着、自分の分担は地下70センチ長さ5メートルを掘り返す仕事です。

しばらく肉体労働から遠ざかっており、最初はすぐ息切れです。息が整ったら穴を掘り、穴を掘ったら息が切れ、このくり返しです。頭の先から足の先まで汗がふき出します。

久々に体験する激しい労働です。そのうち足腰がいうことをきかなくなります。気力と腕の力は残っており、穴の淵に座り込み腕だけで堀りつづけ足腰の回復を待ちます。しばらく掘り下げていくと、前回工事をした業者の弁当のカスやペットボトルが出できました。この業者のモラルの低さにあきれます。

苦労しながらもひと段落、ようやく昼休み、空腹感はあるが暑さと疲労のため食欲がわかず弁当は多くを口にできません。

つかの間の休息で元気が戻り、午後の作業も何とか耐えました。社員の皆さんが無言で励ましてくれます。スコップにコツンと手応え、ヤッタネ!ついに地下70センチの配管に到達です。

他の仕事を終えた社員さんの応援もあり、穴を埋め戻し定刻には作業も終了し、与えられた仕事を無事やり遂げることが出来ました。

異業種一日体験でしたが、穴掘りを通し汗で得る報酬の尊さを再認識すると同時に、「千里の道も一歩から」着実な継続が勝利を得ることも身を持って感じました。汗を出し、美味しくのめるはずであったビールが疲労困憊で喉を通らなかったことが残念です。

己の生き方に迷うことなく、新しいスタイルの不動屋として精進し、少しでも皆様のお役に立てるよう頑張りたいと思います。

平成11年9月1日

一本の糸 野口レポートNo323

遺産分割協議は数ある相続手続きのなかでも一番ハードルが高い作業です。親が残してくれた財産に感謝し、互いが尊重し譲り合い、円満に収まるところに収まる、こんな相続は感動します。親は故人なので会うことはできませんが、子供たちを「感謝の気持ちと譲る心」を持った人間に育て上げた素晴らしい人だったと思います。

相手の話に聞く耳を持たず、昔のことをはじから持ち出し、自分のことばかりを主張し、相続を争いにしてしまう相続人もいます。こんな子供に育ててしまったら「親の子育ての失敗」です。相続は人生最後の仕上げ「子育ての集大成」と言えるでしょう。

遺産分割協議の立ち会いは気配り心配りのなか、緊張の糸が張り詰める世界です。終わるごとにエネルギーを消耗します。相続は十件十色、相続人も十人十色です。同じ親から生まれたのに人格が全く異なる兄弟姉妹もいます。遺言があればこの手間は省けます。

売り言葉に買い言葉、最初は口論から始まり争いに発展してしまうこともあります。家庭裁判所の審判になってしまったら兄弟姉妹の縁は切れ元に戻ることはありません。相続争いは家族が音を立て崩れ、相続人は勝っても負けても不幸になります。

私はいつも仕事で心がけていることがあります。例え糸1本でもよいから兄弟姉妹の縁を残しておくことです。

21年前の相続案件です。現場は大磯にあります。近くに勉強仲間のNさんがいます。地元なので土地勘もあり情報にも精通しています。一緒にこの案件を手伝ってほしいとお願いしました。

父親が亡くなり相続人は母親と兄と弟の3人です。知り合いを介し兄からの依頼です。弟夫婦が長年親と同居し世話をしています。兄夫婦はまかせっぱなしで自分達は一切係わっていません。

遺産である土地を分筆し2人で分けることになりました。分筆すると片方は公道に接しますが、もう片方は私道にしか接しません。兄は価値のある公道側の土地を取得したいと主張します。長い間、親の世話をしてきた弟は納得できません。

 激しい相続争いに発展してしまいました。「相続争いなどドラマのなかの話かと思っていた。が、まさか自分が遭遇するなど思ってもみなかった。」兄の言葉です。揉めに揉めましたが、最後は弟が1歩譲ってくれ何とかまとまりました。

 兄には、ある機会を通し弟と縁が戻るようにと1本の糸を残しておきました。その後この兄弟がどうなったかわかりません。

 突然、兄から電話がありました。相談があるとのことです。21年ぶりの再会です。最初に聞いたのは弟のことでした。「たぶん生きていると思うよ」でした。「一度こうなったら元には戻らないよ」とも言っていました。託しておいた1本の糸は切れていました。

寂しい話です。が、これが現実かも知れません。21年目にして相続の難しさを改めて感じさせられました。

法律と財産を頭から外す 野口レポートNo321

相続の実務でいつも心がけていることがあります。一度「法律と財産を頭から外し、相続人の幸せを心から考えてみる」ことです。

すると本質が見え目的がはっきりしてきます。

以前扱った案件です。知人の紹介でAさんが相談に見えました。Aさんは45歳独身の女性で父親と同居しています。

父親が亡くなりました。遺産は30坪ほどの自宅土地建物です。相続人は母親とAさんの2人です。母親は認知症で施設に入っています。10か月以内に相続手続きをしなければならないと言われ、どこへ誰に相談したらよいのか分からず、毎日悩んでいたそうです。遺産分割に法律上の期限や時効はありません。Aさんは相続税の申告と相続手続きを混同していると思われます。

多くの相談者は自分の目的が分かっていません。話を十分傾聴しこの問題の本質がどこにあるのかをつかみます。Aさんの目的は相続の手続きではなく、自宅に住み続けられることだと分かりました。遺産も相続税基礎控除以下なので申告の必要はありません。

相続問題の本質が分かれば方向が決まり、何をすればよいのか何をしなければならないかが明確になります。

Aさんの目的は、「この家に住み続ける」ことです。私の答えは「このまま何もしないで放っておきましょう」でした。

母親には意思能力がありません。法律は成年後見人をつけた遺産分割を求めています。母親を成年被後見人にしてしまうと、母親の財布は家族の手から離れ何をするにも後見人です。そして一度成年被後見人にしてしまうと生涯外すことができません。職業後見人を頼めば、報酬を払い続けなければなりません。

何もしなければ父親の遺産は、母親とAさんの遺産未分割共有状態になります。が、Aさんが自宅に住み続ける分には何の支障もありません。何もしなくても目的は十分達成できるのです。

いずれ母親が亡くなれば相続人はAさん1人です。ここで父親と母親の相続手続きを一緒にし、自宅の名義を自分に移せば済むことです。このアドバイスでAさんは安どの表情で帰られました。

318号で紹介した地主の息子に嫁いだBさんにしてもしかりです。法律と財産を頭から外し、相続人の幸せは何かと心から考えた時「財産でなく自分の幸せを取りましょう」この答えが出てきます。法律と財産が頭のなかに残っているうちは本質は見えてきません。

相続アドバイザーは目的(本質)をつかみ、相続人を幸せの道へ案内する相続の実務家です。

今まで多くの相続にかかわってきました。相続は幸せになってナンボです。私の相続に対する思いはたったひとつ「残されたすべての人を幸せにする相続」であってほしいのです。

この目的は微塵もブレたことはありません。明確な目的をもって、残りの人生を生きている自分に幸せを感じます。

遺言の検認と検索 野口レポートNo320

遺言には大きく分けると、「自筆証書遺言」と「公正証書遺言」の2種類があります。自筆証書遺言は、家庭裁判所の「検認」を受け、遺言に「検認証明書」を添付しなければ、銀行預金の解約や不動産などの相続手続が一切できません。

検認は遺言が有効か無効かを判断するものではなく証拠保全作業です。相続人全員が家庭裁判所の審判廷に呼ばれ(出欠は自由)相続人の前で開封されます。

公正証書遺言は、法律の専門家が作成するので法的不備はありません。原本は遺言者が115才位になるまで公証役場で保管してくれます。ゆえに改ざん、紛失、焼失の心配はありません。

公正証書遺言には、「検索制度」があります。平成元年以後に作成した遺言なら、相続開始後に相続人もしくは代理人が近くの公証役場へ出向き検索をかければ、全国どこの公証役場で作成した遺言でも一覧表で出できます。相続人が請求すれば再発行も可能です。

◎Aさん家族は某団体に属しています。Aさんはこの団体に馴染まず、成人したのを機に脱会しました。それが原因で家族からは村八分にされています。いつもながらこの種の問題の根の深さを感じずにはいられません。弟がすべてを仕切り、何をするにもAさんは蚊帳の外です。そんな仕打ちに耐えてきました。

父親が亡くなりました。弟に何度連絡しても取りあってくれません。遺産を把握するため不動産登記簿謄本を取りました。収益物件はすでに相続開始後に弟の名前で登記がされていました。Aさんは遺産分割協議書に判子を押した覚えはありません。

公正証書遺言があれば登記が可能です。検索をかけてみました。平成19年作成が1本、亡くなる5年前に作成したものが1本ありました。遺言が複数ある場合は日付の新しいものが有効です。

内容はひどいものでした。弟が収益不動産や預貯金など美味しいところを独り占めし、羽振りのよかった父親が、当時買いあさったリゾートの土地(複数)を全部Aさんに押しつけています。

これらの土地は流通するような物件ではありません。周りの土地も多くが売りに出ています。が、成約した物件は1件もありません。これは「資産」ではなく「負債」です。俗に言う「負動産」です。

弟はいいとこ取りを決め込んで、何をしても何を言っても音沙汰なし、相続税の申告もできません。このような相続人は一番始末が悪いです。ここは弁護士にお願いすることにしました。

この案件の懸念は、子のいないAさんが亡くなり、次に奥様が亡くなったら、多くの「負動産」が奥様の兄弟姉妹や甥姪に渡ってしまう可能性があります。これをどうするか、これからの課題です。

Aさんはセミナーで私の話を聴いて感銘してくれました。それがご縁で知りあいました。素朴で素直な人です。できることはやってあげたい、そんな気持ちで取り組んでいます。

相続人を幸せの道へ案内する 野口レポートNo319

野口塾の塾生に司法書士の中島 誠さんがいます。円満相続を目指し、相続人の幸せのため日々奮闘しています。修羅場もくぐってきました。熱い心を持った志を同じくする仲間です。

以下は中島さんの言葉です。

「相続問題は法律、金銭、生活、心が複雑に絡み合っています。

相続アドバイザーは相続人の幸せを求めて複雑な問題に取り組みます。相続アドバイザーに求められるものは、専門知識は勿論の事、高い人格が求められます。高い人格は汗(苦労)を正しく消化した者のみが具わる格だと考えます。

高い人格を備えた相続アドバイザーだからこそ、相続人の複雑に絡み合った心を解きほぐし、専門知識を知恵に変えて法律、金銭、生活の問題を解決し、相続人を幸せの道へ案内することができるのではないでしょうか。」

私の好きな言葉です。相続アドバイザーとして仕事の本質を語っています。この言葉は塾生が共有できるよう、野口塾のセミナールームに飾ってあります。気持ちがブレそうになった時など、これを読んで心を引き締めています。

相続人の経済的利益だけでなく、精神的利益をも守って差し上げることができる「立ち位置」にいるのが相続アドバイザーです。

◎高齢のAさんから相談を受けました。平成20年の相続の話です。士業の「ボタンの掛け違い」が原因で、問題がこじれてしまい、今日まできてしまいました。Aさんは15年間この相続問題が頭から離れず気を病んでいました。

今までの経緯や状況からして、弁護士に依頼し対応してもらうのがベストであると判断しました。

Aさんの譲る心と、家族の協力、弁護士先生方の尽力が功を奏し、調停も無事に成立し、15年間塩づけだった相続問題がようやく解決し、Aさんも安堵されたことと思います。

◎地主の息子に嫁いできたBさんからの相談です。Bさん夫婦には子がいません。夫が50代の若さで急逝しました。相続人は配偶者のBさんと夫の母親です。「先の相続(父親)で弟が取得した不動産は母親に相続させなさい。」と義姉が口を出してきました。Bさんは法律相談を渡り歩き、憔悴しきった顔で私のところへみえました。「うつ」の扉を開き、すでに片足を突っ込んでいる状態です。

3時間話を傾聴し、心の内を全部吐き出してもらいました。私の答えは「財産でなく自分の幸せを取りましょう」でした。Bさんは当時48才です。大事なことに気付き号泣し我に返りました。

いくら財産を取得しても、その後の人生を「明るく 楽しく 健康」で過ごせなければ相続の意味がありません。吹っ切れたBさんは先ほどとは別人の顔をして帰りました。ふたつの小さな相続案件でしたが、相続人を幸せの道へ案内することができました。

相続放棄あれこれ 野口レポートNo318

Aさんから相談を受けました。30年以上も音信がなく行方不明だった兄が、地方の工事現場の宿舎で孤独死し、警察から連絡がありました。いくら行方不明だったとはいえ血のつながった兄弟です。現地で供養しお骨を持って帰ってきました。

ここまではよかったのですが、しばらくしてから、兄の友人であるとか、仕事仲間であるとか、わけの分からない人達から、お金を貸してあるから返してほしい、売掛金があるから払ってほしいなど連日電話が入り、奥さんも精神的にまいっています。

兄は独身で子供もおりません。両親など直系尊属もすでに他界しているので、第3順位の相続となり、相続人は弟であるAさんと三男の2人になります。相続人は全ての権利と義務を承継します。

状況からすると他にも隠れた借金や債務がある可能性があります。

マチ金などプロの金貸しは、相続放棄ができる3ケ月以内は請求してきません。このままでは幸せだった家庭が揺らぎます。司法書士につなぎ2人の相続放棄を家庭裁判所に申述し受理されました。

俺は「財産いらないよ」と、遺産分割協議書に署名押印をして、相続を放棄したと思っている人がいます。これはゼロの財産を相続したことになり、相続人の地位は残ります。借金や保証債務があれば法定相続分で相続してしまうので注意が必要です。

借金や連帯保証などの債務は法定相続分で相続するのが原則です。被相続人が借金3,000万円(アパートの借入)と、知人の3,000万円の連帯保証人になっていて、子ども3人が相続人ならば、1人につき1,000万円の借金と、1,000万円の連帯保証を引き継ぎます。ただし銀行が特定の相続人(アパートを相続した人)が、単独でこの借金を引き継ぐ「免責的債務引受」を承諾してくれたなら、借金は他の相続人に及びません。

相続放棄は相続人であると知った時から3ケ月以内(期間伸長の手続きで伸ばすこともできる)に家庭裁判所に申述し受理され初めて成立します。また一度受理されたら取り消せません。 

被相続人の財産に手をつけてしまったら相続放棄はできません。また生前に相続放棄すると約定を交わし、関係者全員が実印を押印し印鑑証明を添付していても生前の相続放棄は無効です。

夫婦は離婚することで元夫や元妻の相続人にはなりません。養子も離縁することで相続人になりません。が、血のつながる実子は縁が切れません。夫の借金やギャンブルが原因で、子連れで離婚した妻も相続放棄の知識は知っておく必要があるでしょう。

相続放棄し相続人不存在になったからと言って、それで終わりとは限りません。状況によっては放棄した財産に不動産などがあれば、従前と同じ管理責任が残ります。国庫に帰属させるにはそれなりの手続きと費用がかかります。財産構成にもよりますが放棄を考えているならば、専門家と協議することが必要です。