相続と所有者不明土地 野口レポートNo297

不動産登記簿を見ても、現在誰が持っている土地なのか分からない。所有者不明土地は全国の土地の20%を占めるそうです。

原因は相続登記の不備が最も多く、次は住所が変わっても住所変更の手続きをしていないことです。

遺産分割協議が整わなければ、土地も相続登記ができません。次から次へと枝分かれしていきます。

孫の子⇒     ひ孫・曾孫(そうそん)
孫の孫⇒     やしゃご・玄孫(げんそん)
玄孫の子⇒    来孫(らいそん)
来孫の子⇒    昆孫(こんそん)
昆孫の子⇒    仍孫(じょうそん)

ある土地と建物があります。すでに50年前には空家になっていたそうです。老朽化し屋根が落ちています。近隣住民の訴えで役所も放っておけず所有者の調査をしました。

所有者200人、93人が存命しており、相続登記をしないままに「来孫」まで枝分かれしています。

「全国の土地の20%が所有者不明土地である」この憂しき問題を何とかしなければと、民法・不動産登記法の改正法案が国会に提出されました。いくつか流れを紹介したいと思います。

◎土地の相続登記の申請義務化
相続によって土地の取得を知った者は、知った日から3年以内に登記をしないと10万円以下の過料が課せられます。また、所有者の住所が変更になった場合は、正当な理由なく住所変更から2年以内に登記の変更申請をしなければ5万円以下の過料が課せられます。

◎遺産分割に期限が定められる
現行民法には遺産分割に期限の定めがありません。何年経っても遺産分割協議が整わない、世間にはよくある話です。改正法が成立し施行されると、相続開始時から10年が経過し、遺産分割協議が整はない時は、遺産は法定相続分で強制分割されることになります。土地も法定相続分で登記されます。つまり遺産分割に10年の期限が定められることになります。

◎土地所有権の国庫への帰属が可能となる
土地の所有権は放棄することができません。この制度は結果として「土地を捨てることができる」画期的な制度だと思います。

一定の要件(物納要件に近い)を満たした土地の所有者は、その土地の所有権を放棄し国庫に帰属させることに対し、法務大臣の承認をもとめることができるようになります。相続でまったく価値のない土地(負動産)を所有し、困っている人はたくさんいます。この制度の創設が一筋の光になればよいのですが。

思いきった改正ですが、所有者不明土地が、国土の5分の1になるまで、放っておいた政府の対応はいかがなものかと思います。

お一人様と相続人 ➂ 野口レポートNo296

疎遠の相続人には3通りのタイプがあります。①亡くなった人とは面識もなく「遺産を頂く筋合いはないから」と相続分の放棄を申し出てくれる人。②代表相続人の提案をほぼ受け入れてくれる人。③権利意識が強く「自分も相続人である」と権利を主張する人。

遺産分割は全員が納得し、すんなり合意することなどめったにありません。何度かキャッチボールをして落としどころを探っていきます。苦労しましたが最後は何とかまとまりました。

遺産分割協議書は原本(全財産が記載)が人数分と、不動産登記用(不動産のみ記載)が1通、銀行用(預貯金のみ記載)が1通、全部で3種類作成します。

原本で相続登記をしてしまうと法務局に写しが残り、利害関係人は閲覧できてしまいます。

原本で銀行手続きをすると、その家の全財産を銀行にさらけ出すことになります。遺産分割協議書の原本はトップシークレットです。

不動産登記用の分割協議書は、相続登記ができるか、調印の前に事前に司法書士にチェックをお願いします。

銀行の預貯金の解約手続き等を円滑に行うため、Bさんが預貯金と全財産を1人で取得し、協議で決まった金額を他の相続人に代償金として支払う代償分割の形を取りました。

Bさん親子に上京いただき、いよいよ預貯金の相続手続きです。手続きに2時間以上かかることもあります。全部で7カ所を回ります。金融機関の相続手続きは肉体労働のようなものです。

必要な書類は私が一切揃えます。Bさんには銀行専用の依頼書に行員の指示にしたがって記入し、署名捺印をしてもらうだけです。私は隣に座って必要に応じてサポートします。

各銀行の手続きも円滑に進み、次は鬼門である某信金です。遺産分割協議書があるので、専用の依頼書は代表相続人1人の署名捺印で足ります。が、相続人全員の署名捺印をもらってくれと言われました。今度ばかりは譲れません。本部に聞いてくれと食い下がりました。本部の答えはそれでよしでした。

預貯金の解約も終わり、Bさん親子に再度上京いただき、最後は相続税の申告です。税理士と打ち合わせをし、あとは郵送と電話でやりとりしてもらい無事に相続税申告も終わりました。

他の相続人は何もしないで、ただ上からお金(代償金)が下りてくるのを待っているだけです。Aさんに子供や養子がいたなら、急逝しないで長寿を全うしたなら、もらえるお金ではありません。

まして疎遠の相続人には棚ボタ財産です。お一人様のAさんは兄弟姉妹に迷惑をかけたくないと、贅沢をせず質素な生活を続け老後に備えてきました。残された遺産は重いお金です。Aさんと動いてくれたBさん親子に感謝し、大切に使っていただきたいものです。

  おわり    

お一人様と相続人 野口レポートNo293

父母等の直系尊属はすでに他界し、配偶者がいない、子供もいない、ひとり身の「お一人様」が亡くなると、第3相続順位の兄弟姉妹が相続人になります。すでに亡くなっている人がいれば、その子供が1代限りで代襲相続人になります。

岩手から川崎に出てきて40数年、高齢のAさんが急逝しました。お一人様のAさんには兄弟姉妹が4人います。3人は存命で岩手に在住しています。1人に代襲相続が発生しています。代襲者の姪は疎遠でどこにいるのか分かりません。

岩手からは一番若い末弟(73歳)のBさんと息子のCさんが上京し、川崎で葬儀をすませお骨は故郷に持ち帰りました。Bさん親子は再度上京し、Aさんが借りていたアパートの解約や明け渡し、遺品整理などの後始末をしました。

遺品整理を扱った業者が知り合いだったので、私をBさんに紹介してくれました。フットワークの良い息子のCさんが相続人の窓口になってくれることになりました。

最初にやることは司法書士に依頼し相続人の確定です。Aさんが生まれた時からの全戸籍を取得します。高祖父母など生きているわけがないのに、上の上までさかのぼり戸籍を取得し直系尊属が誰もいないことを証明し相続人が兄弟姉妹に確定します。

次は預貯金通帳等から銀行を特定します。そして残高証明の取得です。Bさん親子は岩手にいるので銀行回りはできません。

Bさんの委任を受け代理人として残高証明を取得することになりました。都銀・地銀・ゆうちょ、残高証明は全て取得できました。

最後は某信金です。信金「代理人では駄目です。相続人本人の署名捺印をもらってください。」 野口「他の銀行は代理人の署名捺印で取得できたんですよ。それでは委任状の意味がありませんよ。」

信金「うちの決まりです。」ここは100歩譲りました。

 野口「残高証明は私のところへお願いします。」 信金「相続人に送るので送り返してもらってください。」全く話になりません。相続の円滑な対応も大事な顧客サービスではないかと思いますが……。

 戸籍も揃い相続人の確定ができました。疎遠であった代襲者の住所も判明し相続人は4人です。姪に手紙を書きました。

疎遠の相続人や前婚の子に最初に出す手紙は細心の注意と気遣いが必要です。これで相手に与える印象が決まります。

◎突然に手紙を出す非礼を詫びる ◎弁護士ではないことを伝える ◎法律用語は使わない ◎相続人であると判明したことを伝える ◎遺産は調査中にしておく ◎とりあえず連絡をくださるようお願いする。 ◎ダイレクトメールとまちがえられゴミ箱へ捨てられないように、宛名の下に「〇〇様相続の件」と書き添えます。

はたして連絡はくるかどうか、祈るような気持ちで投函しました。

次号へつづく

コロナ禍と相続実務 野口レポートNo292

コロナは人から大切な時間を奪い、多くの仕事や生活に影響を与えています。相続や不動産も例外ではありません。

◎一昨年の11月に父親がなくなりました。母はすでに他界しており、相続人は長男を含め4人です。遺産は自宅とアパート、預貯金株式なのどの金融資産がそれなりあります。

長男はお金をかけてもらい一流大学を出て一流企業に就職し、現在は自分で起業し業績も順調です。

遺産分割に際し「自分はハンコ代でいいよ。あとは3人で話し合ってくれ」と腹の太いところを見せていました。心が広いお兄さんだなと感心していました。

遺産分割の話会いも順調にすすみました。ところが年が明け3月になると、長男の会社がコロナの影響をまともに受け業績が急激に悪化してしまいました。

当初は「ハンコ代でいいよ」と言っていた長男の態度が一変しました。遺産分割は最初からやり直しです。父親が亡くなるのがあと1年早かったら円滑な分割で済んでしまったでしょう。

◎同じく一昨年の話です。老朽化した収益物件の売却の依頼を受けました。何とか売り抜けましたが、年が明けてしまったら買う人はいなかったと思います。わずか1年の差で運が分かれます。

コロナの影響で昨年の3月頃から相談者の来店が減っています。感染対策はとっていますが面談を控えていると思われます。コロナが終息してからと問題を先送りにしている人もいます。

代わりに遺言作成など一般家庭の相続対策の相談が増えてきました。コロナに背中を押され相続が現実味をおびてきたのでしょう。財産が自宅と預貯金が1000万円~2000万円、この層の優先すべき相続対策は遺産分割対策です。

配偶者が自宅敷地を取得するか、または小規模宅地特例の要件を満たせば、相続税の心配はまずないでしょう。ただし、10ケ月以内に申告が必要となるので税理士の費用はかかります。

遺産が相続税基礎控除を超えなければ、相続税の申告義務はなく遺産分割のみで済みます。こちらは期限の定めは特にありません。

また、相続争いの多くはこれらの層に発生します。主な財産が自宅では分けようがありません。遺言の作成は必須です。

兄弟姉妹の相続以外は遺留分の問題が絡んできます。先の相続法改正で遺留分減殺請求権が遺留分侵害額請求権となりました。もし遺留分を請求されたら金銭で払わなければなりません。遺言作成と遺留分対策は一体で考える必要があります。

財産があれば遺留分を侵害しない遺言も可能です。が、上記の層ではそんなわけにはいきません。親の考えや思いを伝えておく、付言の工夫、生命保険の活用など準備が必要です。コロナ禍を機に相続対策の必要性が一気に顕在化してきた感があります。

一刀流の極意 野口レポートNo291

「剣は心なり 素直な熱意こそ 大切なり」稽古に通っていた剣道場の標語です。私はこの言葉が大好きでした。

25歳で剣道を習いはじめ、続けていたら三段になっていました。剣道の精神や考え方は、自分の生き方や人生だけでなく、50歳で起した相続の仕事にも少なからず影響を与えてくれました。

人生は人との出逢い、師との出逢いで決まると申します。刃筋が通り真っすぐ下りた剣は相手の剣をはじき、肉を切らせて骨を切ります。「真っすぐ上げて、真っすぐ下す」師である道場の館長(小野派一刀流師範)から教えていただいた一刀流の極意です。 

中野八十二先生(元慶応大学剣道部師範)が道場を訪れてくれました。中山博道らとならび昭和の剣聖といわれた達人です。三段以上は特別に稽古をつけていただけます。当時二段の自分はかえすがえす残念でした。

「剣道とは何か」見ておきなさい。館長の言葉のあと弟子たちは総当たり、高段者の先輩たちが中野先生にまるで赤子のようです。剣先は相手の中心を一分も外さず霊気さえ感じます。

剣豪など文庫や映画の世界と思いきや、現実に目のあたりにした達人の衝撃は、いまでも目に焼き付いています。

どんな格下でも相手を尊重し、真剣勝負で応じられる姿にも感銘を受けました。小さな仕事でも全力で取り組むことの大切さは、中野先生の姿から学ばせていただきました。

昭和の剣道ブームのころ、地元の剣友会で小学生の指導をすることになりました。剣道は正しい面打ちができれば、ほかの技は自然と身につきます。ここは徹底し指導しました。

子どもたちの剣筋は素直で、剣道大会では相手に胴を抜かれたり、小手を打たれたり、試合ではなかなか勝てません。「なんでうちの剣友会は勝てないの?」内心お母さんたちは不満です。これでいい、これでいいのです、もう少し我慢と説得します。

小手先の技を教えれば試合では勝てますが、いずれ行き詰まります。「大きく振りかぶり、真っすぐ打ちこむ」は原点です。主宰している相続野口塾もこの精神を20年間つらぬいてきました。

正しい剣筋を身につけた子どもたちはメキメキと頭角をあらわし、剣道大会では上位を占めるほどになりました。教え子たちは揃って地元の中学校に入学し剣道部に入りました。

玉川中学校剣道部が川崎を征するのに時間はかかりませんでした。学校の廊下には笑顔で優勝旗をかこんでいる当時の子どもたちの写真が飾ってあります。

教え子たちは剣道を通し成長し、社会に出てからも立派に活躍しています。「真っすぐ上げて、真っすぐ下す」一刀流の極意は全てに通じる極意でもあります。

時間どろぼうと新型コロナウイルス 野口レポートNo290

半世紀以上前に書かれた児童文学に「モモ」ミヒャエル・エンデ作があります。時間どろぼうと、ぬすまれた時間を人間にとりかえしてくれた女の子のふしぎな物語です。

数年前に知人にすすめられ読みました。児童文学とはいえ奥の深い本であると感じました。今この本がコロナ禍で注目されています。再読しさらに深さを感じました。

物語は、時間どろぼう(ゾッと寒気がする「灰色の男」たち)と自然のままに生きている浮浪児の女の子「モモ」との戦いです。

「灰色の男」たちにあやつられ、時間を盗まれてしまった町の人びとは、むだな時間が人生を豊かにすること、人間らしく生きられること、このことを完全に見失ってしまいました。

いい服装をし、お金もよけいに稼ぎました。しかし以前のようなしあわせな生活にはなれません。心もすさんでいきます。

意味は少し異なりますが、時間どろぼうは現代でも私たち人間のそばにいます。それは「新型コロナウイルス」です。コロナは多くの人たちから大切な時間を盗んでいきました。

①人の命⇒ 「志村けん」さんも人生の後半で一番大切な残りの時間を盗まれてしまいました。盗まれなければ独自の笑いで多くの人を楽しませてくれたでしょう。

②通勤時間⇒ 通勤時間も盗まれました。在宅ワークも長期間となるとどうでしょうか、通勤は必要な時間だと思います。

③温泉旅行⇒ 庶民のささやかな楽しみである温泉旅行の癒しの時間も盗んでいきました。開店休業の旅館やホテル、車庫には時間を盗まれた観光バスがあふれています。

④教育⇒ 教育は国にとって最も重要な事業です。大学生のなかには入学したが、一度も学校に行ってない学生もいます。大切な学ぶ時間も盗まれました。

コロナは、私たち人間から膨大な時間を盗みました。これ以上どんな時間を盗もうとしているのでしょうか?

話を物語に戻します。モモ⇒「時間をぬすまれてしまった人間はどうなるの?」灰色の男⇒「人間なんてものは、もうとっくから要らない生きものになっている。この世を人間のすむ余地もないようにしてしまったのは、人間じしんじゃないか。こんどはわれわれがこの世界を支配する!」(モモより引用)。

物語では「モモ」が「灰色の男」たちから盗まれた時間を取り戻し、人びとはもとの人間らしい生活に戻ることができました。

はたして現代社会に「モモ」はいるのでしょうか、これからの新しい生活様式に人間のリズムが合うのでしょうか、コロナ禍は私たちに「時間とは何か」を考える機会を与えてくれました。

この本は人間としての本来の生き方を忘れかけてしまっている現代人に警鐘をならし「時間の真の意味」を問うています。

高齢者と成年後見制度 野口レポートNo289

高齢になると判断能力が衰えてきます。そこにつけ込み、必要のない作業をし、高額な請求をする悪質業者、あの手この手の特殊詐欺など、もし自分の親が同じことをやられたらどう思うのか!

以前、友人から電話がありました。夜中なのに一人暮らしのおばあちゃんのところへ業者が出入りしている。おかしいからきてほしいとのことでした。かけつけてみるとシロアリ業者が床下に10個近い換気扇を取り付けようとしています。おばあちゃんは言われるがまま、費用は150万円とのことです。

業者に床柱の補修で十分ではと迫ると、契約書を盾に「あんた部外者でしょう、うちは本人と合意しているんだ」と強引に作業を進めようとします。訪問販売にはクーリングオフもあるし、取りあえず息子さんに連絡し了解をとってくれと頼みました。

騒ぎに気づき近所の皆さんも集まってきました。あきらめた業者は契約書を破棄し去っていきました。友人の機転がなかったら、おばあちゃんは悪質業者の被害者になっていたでしょう。

こちらも一人暮らしのおばあちゃんです。不要な訪問販売や某団体などの勧誘が後をたちません。嘘も方便、家族と本人の同意を得て門の内側に「成年後見人がついています」と張り紙をしました。それ以後は訪問販売や勧誘はピタリと止まりました。

判断能力の衰えに対し民法は「成年後見制度」を設けています。判断能力が全くない人には成年後見人をつけることができます。

ある父の相続手続きです。相続人は母と同居の長女です。母は数年前に足を骨折し、要介護の認定を受け車イスの生活をしています。5日後に介護施設に入所の予定です。

近くの司法書士へ行きました。書類を全部取ってきてくれたらやると言われました。次は法律事務所へ相談に行きました。弁護士からは施設に入ってしまうと、コロナで面会ができない、分割協議もできないから成年後見人をつけると言われました。一度後見人をつけると死ぬまで外せません。毎月の後見人の費用もかさみます。

途方にくれた母娘は人をたよりに、女性で相続コーディネーターのMさん(運がよかった)にたどりつきました。

母の判断能力は足りると確信し、翌日介護タクシーを予約し、車イスの母と長女と役所回りをし、戸籍などの必要書類を集めました。

コロナ禍ゆえ登記をお願いする司法書士には、リモート等で本人の意思確認をしてもらい、分割協議書に母の署名押印をいただきました。これで母の対応は済みました。あとは順次手続きを進めるだけです。入所する1日前でした。「これで安心ですよ」と、母娘に言ったら「ありがとうございます」と泣かれてしまったそうです。

相続人から心より感謝され報酬を頂戴する、これぞ相続実務の神髄です。Mさんは「いい仕事」をしてくれました。話を肴に美味しいお酒をのみながら労をねぎらってあげました。

配偶者居住権 野口レポートNo288

父が亡くなるとその財産は、亡くなった瞬間に配偶者が2分の1、子が2分の1(複数なら2分の1を均分)の割合で未分割共有状態となり、所有権が相続人に移ります。

それを各相続人の確定した財産にする話し合いが遺産分割協議です。全員が合意すれば、どのような分け方をしても有効です。

遺言があれば法定相続に優先し遺言通り(遺留分は別の問題)になります。また借金の遺産分割は相続人の間では有効ですが、銀行などの債権者に対抗(主張)できないので注意が必要です。

《事例》父が亡くなり相続人は母と長女と二女です。長女夫婦が同居し父を看取り、残された母の面倒をみています。二女が自宅を相続したいと理不尽な要求をし、母・長女対二女と争いになっています。最後は弁護士が入り審判で決着がつきました。

この時に母に対して大事なアドバイスがあります。「一切の財産を長女に相続させる」との遺言を作ることです。

夫が亡くなった瞬間に夫の財産の2分の1は、すでに配偶者に移っています。もし係争中に母が亡くなったら2分の1の半分が二女に渡ってしまいます。

が、このような子は稀だと思います。ほとんどの子は夫に先立たれた母を気遣い、思いやりの相続を考えています。

◎先般の相続法改正で「配偶者居住権(建物に設定)」が創設されました。夫(妻)の死亡により、残された配偶者が無償にて終身又は一定期間自宅に住み続けられる権利です。

◎事例でみてみましょう。
夫が亡くなりました。相続人は妻と子が2人です。遺産は自宅(2000万円)と預貯金(2000万円)です。妻が自宅を相続すれば法定相続分は使い切ってしまいます。子どもたちが権利を主張したら預貯金は取得できず生活資金を確保できません。

「配偶者居住権」の評価(年齢で異なる)を、仮に1000万円とします。これで妻は生涯自宅に住むことができ、かつ残りの相続分で1000万円の預貯金を取得することができます。

「配偶者居住権」を設定すると、所有権の評価はぐんと下がります。そして配偶者の死亡により「配偶者居住権」は消滅します。子が1000万円で相続した負担付所有権は完全所有権となり、税金なしで2000万円の価値に変わります。

また、状況が許せば後妻に「配偶者居住権」を遺贈し、先妻の子が所有権を相続すれば、信託の代わりにもなります。

法務省がいう「家族の在り方に関する国民意識の変化」が創設のきっかけとはいえ、親を大切にとの「日本文化」は残っています。

母に対し法定相続分の主張や、追い出してしまうような親不孝な子は、はたしてどのくらいいるでしょうか、「配偶者居住権」本来の趣旨でなく、別な目的で使われる気がします。

驕りは蟻の一穴 野口レポートNo287

謙虚さがなくなる14の兆候

○ 時間に遅れがちになる 

○ 約束を自分の方から破りだす 

○ 挨拶が雑になりだす

○ 他人の批判や会社の批判が多くなる

○ すぐに怒りだす(寛容さがなくなる)

○ 他人の話を上調子で聞き流す

○ 仕事に自信が出て来て、勉強をしなくなる

○ 物事への対応が緩慢になる

○ 何事も理論で解決しようとする

○ 打算的になりだす(損得勘定が先になる)

○ 自分が偉く思えて、他人がバカに見えてくる

○ 立場の弱い人に対して、強くものを言いがちになる

○ 言い訳が多くなる

○ 「ありがとう」という言葉が少なくなる(感謝の気持ちがなくなる)

◎北九州で素心塾を主宰されている池田繁美塾長の「謙虚さがなくなる14の兆候」です。実に的を射ている14項目です。私は机の正面に貼り、いつも自分をチェックしています。 

相続の仕事は士業(先生と呼ばれる職業)と接する機会が多くありまます。資格に人格を具えた素晴らしい先生もいます。が、「傲慢や我がまま」をプライドだと取り違えている先生もいます。

プライドとはそんな薄いものではありません。苦労を正しく消化し、今まで得てきた知識や経験を、お客様の幸せのために使うことのできる「崇高な精神」です。

謙虚さがなくなる兆候は驕りが生まれる前ぶれです。不祥事が発覚する度に、深々と頭を下げる企業のトップや幹部役員、売上は減少、株価は下落、時には命とりにもなります。

いつもシワ寄せを受けるのは、会社のために一所懸命に働いてきた一般社員やその家族です。利益を優先し、お客様や社会への責任を忘れてしまったトップや幹部の驕りの結果です。

驕りは気がつかないうちに偲び寄ってきます。立場が高いほど資産があるほど、他人は何も言ってはくれません。驕りは自分で気づくしかありません。

いくら立場が高くとも、お金持ちでも、時間に遅れる人、いつも損得を計算してうごく人、不満や悪口や文句ばかり言っている人、感謝できない人はそこまでです。

「謙虚さがなくなる兆候」は驕りの前兆です。堅固な堤防も「蟻の一穴」で破れてしまいます。驕りは蟻の一穴です。企業や資産家もトップや相続人の驕りで崩壊します。

驕りを防ぐには自分を下座に置いてみることです。

平等と公平の難しさ野口レポートNo286

平等と公平はよく使われる言葉です。似ていますが意味は違います。どう違うかと聞かれてもよくわかりません。

辞書を引いてみました。平等⇒ 差別がなく等しいこと。公平⇒ 偏らず中正なこととあります。

これでは違いがよくわかりません。単純に考えてみると答えが出てくることがあります。

適切かどうかは別として、身近なところでお正月のお年玉を例に平等と公平の違いを考えてみましょう。

平等⇒ 袋のなかに、小学生が1万円、中学生が1万円、高校生が1万円入っていたら平等です。が、そんな親はいないでしょう。

公平⇒ 袋のなかに、小学生が3000円、中学生が5000円、高校生が1万円入っていました。一般の親が共通し持っている知識と分別であり、これが公平だと思います。

ある相続を例にとってみます。相続人は長男・二男・長女の3人です。長男が親の世話をし、親戚付き合いも引き受け、墓守もしています。また3年にわたり親を在宅介護し最後を看取りました。介護は肉体的に精神的に大きな負担を強いられ、介護した者でなければその苦労はわかりません。状況をふまえ考えれば、長男が厚めに相続するのは自然ではないかと思います。

ところが現在の法律は「均分相続」です。親戚付き合いや墓守はもちろん、介護にしても特別な寄与(壮絶な介護)以外、通常の介護では寄与分として相続分に反映しません。

「均分相続」は「公平相続」ではなく「平等相続」です。この認識は重要です。他の兄弟が譲らず権利を主張したら、長男の相続分は3分の1です。理不尽と思っても常識は法律に勝てません。

法律で決まっている相続分を変えられる人が1人だけいます。それは被相続人になる人です。方法もひとつしかありません。それが遺言です。平等と公平のすき間を埋めるのは遺言しかありません。もし公平を求めるなら遺言の作成は必須です。

◎次は遺産の価値と公平を考えてみましょう。5000万円の預貯金は、相続人の誰がみても財産価値は5000万円です。

これが不動産となるとやっかいです。時価1憶円の不動産はお金に換えて初めて現金や預貯金と公平に比べることができます。

売却すると、譲渡所得税(取得費不明)、仲介料、確定測量、建物解体など、費用を引くと手元に残るお金は7000万円です。

時価1億円の不動産ですが、遺産分割において現金預貯金と公平に比べるなら、実際には7000万円の価値であると、相続人に理解していただくことも必要です。

財産は預貯金だけでなく、不動産、動産、株式、美術品など、多岐にわたり、価値観は相続人により違ってきます。これも遺産分割を難しくします。公平な財産分けは至難の業です。