避けられない「死」 中條レポートNo294

「世の中はなるようにしかならぬ、だが必ず何とかはなる・・・」
もしこの「何とか」というコトバの中に、「死」というコトバも入れるとしたら、 これほど確かな真理はないであろう。
[ 森信三 一日一語 ]

上記の言葉の解説です。
1) 文言の骨格(「死」を含めて読む)
なるようにしかならぬ:死は事実として不可避。抗っても結果は変わらない領域がある。
だが必ず何とかはなる:その不可避な事実に向き合うしかたは選べる。
意味づけ・態度・準備・関係修復・日々の在り方は、いつでも「何とかできる」。

2) 誤読を断つ
放任主義でも諦観でもない。
不変(死そのもの)は受容し、可変(どう生き、どう別れるか)は徹底して整える、という二段構え。

3) 生き方の中核原則(4本柱)
誠実:今日言うこと・やること・残すものを一致させる。
責任:他人のせいにせず、今の自分の選択として引き受ける。
感謝:当然視をやめ、関係・機会・失敗からの学びに礼を言う。
有限性の自覚:時間は減っていく資源。だから優先順位で生きる。

5. これらお相続の実務への落とし込んでみます。
「死を避けられない」という前提に対して、「何とかなる」を“整える”行為へ。思の可視化:自筆証書/公正証書遺言、付言事項、遺産分割方針の素案。

ケアの意思:ACP(人生会議)。延命・緩和、代理決定者の指定。
法的受け皿:死後事務委任、遺言執行者指定、信託。人間関係:小さな火種のうちに声明文化(メッセージレター、家族会議)。記録:資産目録・パスワード棚卸し・契約リスト。
※お一人様は特に上記準備が必要府カケス。

「死」(相続)は避けられません。だから心がまえ準備が必要です。

地主相続はカモの水かき 野口レポートNo350

水面を泳いでいるカモを見るとスイスイと優雅です。ところが目に見えない水面下では絶えず脚を動かしています。

地主さんからセカンドオピニオンとして相談を受けました。被相続人には先妻との間に子がいます。相続でもめぬよう、公正証書遺言を作ってありました。税理士が関わっているので法的不備はありません。だが、先妻の子の遺留分を大きく侵害しています。もし、遺言を執行してしまったら遺留分の請求をしてくるでしょう。

また、不動産の特性を考慮していません。遺産のなかに一区画の土地があります。利用の現状と筆が異なっており、遺言(筆)通りに分割してしまうと、多くの土地が隣接地に越境したり、接道も満たせず、建築確認を取ることも売却することもできません。

10筆以上ある土地を合筆し一筆に戻し、接道を満たした上で利用の実態に合わせ分筆をします。合筆は所有者が同じでなければできません。遺言で各相続人に登記をしてしまったら、合筆が不可能となり、多くの土地が死んでしまいます。

分割前の未分割共有状態なら、相続人全員のハンコが揃えば、合筆することができます。道も要件を満たし位置指定道路の認定を受ければ、建築基準法の道路とみなされ、建築確認の取得も可能となり売却もでき、全部の土地を生かすことができます。

士業(税理士・土地家屋調査士・司法書士)とチームを組み、あとは自分を信じてやるしかありません。苦労しましたが、相続人に何度も状況を説明し理解をいただき、遺言を使わず土地を合筆したあと新たに分筆し、遺産分割協議で無事に合意しました。

ホッとする間もなく、相続税が待っています。相続税は10カ月以内に現金一括納付が原則です。確定測量、越境物解消、開発許可要件などを満たし、期限内に土地を換金できるかが勝負です。

この土地をめぐり、不動産ブローカーが寄ってきます。旨いことを言ってきますが、相続人のことなど考えていません。商売にならぬと見るや潮が引くように一斉に去っていきます。

10億20億の土地資産家の、分割協議から相続税一括納付までの作業は、難度が高く心臓外科手術のようなものです。チームには地主の相続に精通した税理士と土地家屋調査士は欠かせません。

遺言を使ってしまえば楽です。だが、遺留分の請求をされてしまった、土地が死んでしまったでは、相続人が不幸になってしまいます。遺言を使わず(相続人全員の承諾が必要)、苦労を承知で、あえて遺産分割の話し合いを選びました。重い相続案件でしたが、専門知識を知恵にかえ、気力と体力を出し切りやり遂げました。

難しい仕事をさりげなくこなすのがプロです。だが、水面下では絶えず脚を動かしています。それはお客様からは見えません。

そんな苦労を支えているのは、やり遂げた達成感と、ブレない信念に加え、相続人を守る実務家としてのプライドです。