相続時預貯金口座照会制度 中條レポートNo298

相続手続において「どこに財産があるか」を把握することは、遺産分割や遺留分、相続税の検討以前の土台になります。従来、相続の場面では、証券・保険・借入金などについて一定の照会手段が整備されてきましたが、預貯金については網羅的に確認できる仕組みが十分ではありませんでした。

こうした実務上の空白を埋める制度として、口座管理法に基づく「相続時預貯金口座照会」が令和7年4月から運用される点は重要です。

照会により、被相続人名義の口座について「金融機関名、支店名、預貯金の種類、口座番号、預貯金者名」といった口座情報の提供を受けられますが、残高は対象外であるため別途その金融機関での調査が必要になります。

もっとも、この制度で「全ての預貯金を把握できる」わけではありません。照会対象となるのは、金融機関側で個人番号(マイナンバー)による管理、いわゆる付番が完了している口座に限られます。

したがって、被相続人に口座が存在しても付番が未了であれば「該当口座なし」と扱われ得ますし、金融機関の管理状況により代表口座のみの回答となる場合もあります。
つまり、制度は強力な補助線ではあるものの、完全調査の保証ではありません。

照会できる期間にも制限があります。対象は「被相続人の死後10年まで」とされており、相続開始後10年以内に手当てする必要があります。相続の長期化、疎遠相続人の関与、遺産分割協議の難航などがあると、財産調査が後回しになりがちですが、制度上の期限を意識して早期に着手することが重要です。

利用できるのは相続人です。また、相続人本人だけでなく、相続人の代理人による申立ても可能とされています。実務では、相続人が遠方にいる、平日動けない、複数の手続を同時並行で進めたい、といった事情が珍しくありません。代理人申立てが可能であることは、手続全体の停滞を防ぐうえで有効です。一方で連名申立てはできないため、誰が申立てを行うか、通知先をどう設計するかは事前に整理が必要になります。

制度は「万能の網」ではありませんが、状況に応じて使えば、預貯金探索の初動を大きく前進させます。相続人の安心と手続の透明性を確保するために、活用可否を早期に判断し、必要な補完調査と組み合わせて進めることが、円満な相続実務につながります。

確定測量は地主相続の要 野口レポートNo354

測量士や土地家屋調査士による測量には、建物建築時などに現状を測る「現況測量」と、現状を測り隣接地主が互いに境界を確認し、境界確認書を取り交わす「確定測量」があります。

調査士は測量の他に土地の合筆や分筆、建物表示登記など、業務の幅が広く、相続では調査士をパートナーにします。国家資格の士業なのに、なぜか先生でなく測量屋さんと呼ばれ親しまれています。

測量機器も進化しており、測るだけなら難しい話ではありません。調査士は、周りの隣接地主から、境界確認書、越境物解消や私道の通行や掘削などの覚書に判子をもらう重要な役目を負います。

《例》以前手がけた地主Aさんの相続です。遺産のなかに660㎡ほどの無道路地があります。売却するには隣接地主の土地の一部と等価交換するか、一部を買い取って接道を満たすしかありません。

この交渉に隣接地主のところへ行きました。が、この地主さんは以前に境界問題で、Aさんから判子を押してもらえず、辛い思いをさせられたそうです。何度訪問しても良い返事がもらえません。交渉中にご本人が急逝してしまい、奥様との交渉になりました。

奥様からは、「お父さんの怨みは私が相続します」と言われ、人間の怨念の深さを、思い知らされたことがありました。境界トラブルは自分のやったことが、そのまま自分に還ってきます。

相続税は10ヵ月以内に現金一括払いが大原則です。特例で物納もありますが、使い勝手が悪く実務にはなじみません。地主の相続では、適切な土地評価、速やかな相続税申告、円滑な納税サポートができる税理士が要になります。そして確定測量に特化した調査士が必要です。境界が確定できなければ土地は売れず、相続税の現金一括納付ができません。調査士の存在は税理士に次いで重要です。

〇隣接地主が相続争いをしている。〇隣接地に管理組合のないマンションがあり、地主が数十人もいる。〇隣接地主は法人で会社が倒産してしまっている。〇隣接地主が認知症を発症している。いずれも境界確定が困難です。

《例》売買契約も無事締結し、確定測量が終われば残金決済をするのみとなりました。これで相続税の現金一括納付できます。安心したのも束の間でした。何を思ったか隣接地主が50年前の遺恨を持ち出し、最後の土壇場で理不尽な主張をしてきました。

難くせをつけ判子を押してくれません。大苦戦を強いられ胃が痛くなりました。境界が確定しなければ面積も確定しません。

結局は売買契約を解約せざるを得ませんでした。地主相続における境界確定測量は遺産分割に次いで気を遣う分野です。

境界線は、感情線とも勘定線とも言われています。境界確定測量は相続と同じく、人の心と欲が複雑に絡んでくるからやっかいです。相続税の調達に必要な売却予定地は、生前測量など事前の準備で「杭を残して悔いを残さない」ことが大切です。