貧困 中條レポートNo192

貧困の原因を個人の問題としてではなく社会的要因からとらえることは重要です。

貧しくなった原因は働かないから、さぼっているから、とするのは簡単です。しかし社会の流れには逆らえず、社会が意図する方向へ進んでいった結果、貧困になった人たちが多くいることを考えなければならないと思います。

貧困を招く社会的要因は時代と共に変わっていきます。
戦後の物の絶対的な不足による貧困の原因は、戦争敗戦というどうにもならないものでした。
戦後から高度成長時代に入り、労働力が地方から都会へ移動しました。あの時代を振り返ると、労働力を都市部に集中させることは国を発展させるために必要でした。

大切なのは地方から都会へ移動してきた個々人が犠牲にしてきたものはないかという視点です。この方々は地方では家族・地域社会というしっかりとしたネットワークの中で暮らしていたはずです。そのネットワークを置いて都会に移動してきたのです。高度成長が収束し仕事がなくなり貧困化してしまった人も多かったはずです。その中には地方に戻れずホームレスになった人もいます。

現代社会においては、ワーキングプアという新しい現象です。これは若者の働く意欲の減退がもたらした現象でもあります。しかし正規社員を減らし非正規社員の雇用が増えていることも大きな原因です。企業は労働コストを下げるため、正規社員より非正規社員の雇用を増やそうとしています。その結果、不安定な生活を強いられワーキングプアとなっていきます。ひきこもりが増えた要因でもあります。
競争社会の原理がワーキングプアを創出していることを忘れてはなりません。

以上述べたような社会的な要因で貧困を招いているという視点から考えると、貧困になった人を助けるセーフティーネットを社会が用意する必要性が理解できます。

しかし生活保護制度における「福祉ただのり」という批判のように、どの制度も問題を抱えています。
制度改革の取り組みを、役所任せにするのでははく、国民の義務であることを国民が自覚しなければならないと感じます。

死後事務 中條レポートNo191

死後事務とは亡くなられた方の葬儀、納骨、病院代の支払い、家財等の処分、近親者への連絡等をすることです。(死後の財産の分配方法を決める遺言とは異なります)

これらは通常親族が行いますが、独居で身寄りがいない、いても縁遠くなっている等で死後事務を行う人がいない(かかわりを拒否された)場合どうするのでしょうか。

後見人がいる場合。

後見人の業務は被後見人の方が亡くなったら終了です。しかし昨年、民法に873条2が追加され、身寄りがない等必要な場合に限り、後見人が一定の範囲の死後事務が出来るようになりました。(それ以前も後見人が事実上死後事務を行っていましたが…..)

具体的には病院・施設の未払い金の精算、火葬埋葬、等々。(早急に対応が必要な火葬に家裁の許可が必要等、どのように運用していくかはこれからです)
但し、葬儀や家財道具の処分等は同法では認められていませんので、実務上の課題も多くあります。

後見人がいない場合。

最終的には行旅病人及行旅死亡人取扱法」に従い行政が対応していくことになるでしょう。

事前に死後の身支度の準備をすることは可能です。任意後見制度の活用です。
任意後見契約を結ぶと同時に死後事務委任契約も結びます。

意思能力が衰えた後、任意後見契約を発動し、財産管理、身上監護を行ってもらいます。死後は死後事務委任契約を発動して、死後事務(身の回りの整理)を行ってもらいます。

死後事務委任は契約ですので、前記の民法8732のように範囲が限られているわけではありません。例えば自分が望む葬儀を行うこと、家財道具の処分を託すことが可能です。(但し、無制限に認められるわけではありません。財産の承継・分配に関することは遺言でしか行えません) 

身寄りのない独居高齢者の方が増えていくことが予想されます。
自分が死んだ後の後始末をどのようにするか。
本人の想いを実現できるアドバイザーが求められます。

一億総活躍 中條レポートNo190

「一億総活躍・働き方改革」として行われた平成29年度税制改正。
その一つが配偶者控除の改正です。

平成30年の所得税から配偶者が扶養になり配偶者控除を満額適用される年収が103万円以下から150万円以下になります。改正の意味はパート主婦が103万円を超えないよう時間を押さえて働くのを防ぐためです。

しかし、社会保険の分野は従業員501人以上の企業(以下「大企業」とします)で所定の要件を満たす場合は、配偶者の年収106万円、それ以外で130万円を超えると扶養から外れます。妻の勤務先により壁になる金額が異なります。

夫が会社員で年収700万円。妻がパート勤め。子が2人(17歳19歳)の家庭の場合でそれぞれの壁を超えた場合の夫妻の合計手取額の推移を試算します。

➀妻が大企業でパート勤めをしていて年収106万円を超えると、妻は夫の社会保険から外れ、妻は勤務先の社会保険に加入します。
そのため妻夫の合計手取が年額15万円減少します。手取り額を挽回するためには妻は年収を125万円まで増やさなければなりません。

②妻が上記以外の勤務の場合、妻の年収が130万円を超えると、妻は国民健康保険、国民年金に加入しなければならず、妻夫の合計手取が年額24.7万円減少します。(会社の社会保険に加入出来れば減額幅は減ります)手取り額を挽回するためには妻は170万円まで年収を増やさなければなりません。

この他、夫の会社の扶養手当が従来の収入基準のままの会社は、手取り額を挽回するためには、妻は更に働かなければなりません。

又、主人の収入要件も新たに加わりました
900万円以上で配偶者控除が受けられる金額が減額されはじめ、1000万円以上では使えなくなります。

上記の理由で配偶者控除の改正をしても、社会保険料等が変わらないと、主婦の労働時間抑制を防げることへの効果には疑問があります。
しかし「一億総活躍」は人口減少社会・超高齢化社会において、働き手を増やすために必須です。

実行性のある制度改革を期待します。

預貯金可分債権判決 中條レポートNo189

No186に掲載した最高裁の判決(預貯金は、法定相続人に法定相続分で分割される財産のため遺産分割の対象ではない(平成16年最高裁判決)ことに対し意義を申立てた裁判)がでました。(平成28年1219日)

「普通・定期預貯金は遺産分割の対象とするのが相当である」としたのです。予想通りの判決となりました。

但し、この判決には裁判官の補足意見が多数付されています。

そのひとつが、遺産分割がまとまらず預貯金を引き出せないで困窮してしまう人をどうするかという問題です。

例えばこんな場合です。

夫が亡くなりました。夫婦には子供がおらず、親は既に亡くなっています。兄弟姉妹甥姪は縁遠くなっている。妻は夫の預貯金から生活費を引き出して生活していた。

この場合、相続人は妻と兄弟姉妹。(兄弟姉妹が既に亡くなっている場合は甥姪までが相続人)遺産分割が容易にまとまらないケースも多くあります。(縁遠くなった兄弟姉妹甥姪と関わりをもたず預金を引き出したいという人もいるでしょう)

分割協議がまとまるまで預金から引出せないと、妻の生活に支障をきたします。

この問題に対応するためのいくつかの案が考えられています。

➀預貯金債権を遺産分割の対象に含めるが、遺産分割協議が成立する前でも、法定相続分で引出すことが出来る。但し、他の財産(不動産等)を遺産分割する場合、預貯金から引出した金額を考慮して取り分を決める。預貯金から引出した分が貰いすぎになっていたら返還する。

②原則、遺産分割をしなければ預貯金は引き出せないが、状況に応じて特例を設け一定の金額は引き出せるようにする。

この他の補足意見に、預貯金以外の債権(例えば損害賠償請求権)はどうするのか等々があります。

今回の最高裁判決は実務に大きな影響を与えます。(注目判決と言われる所以です)

想定される問題に対しては早急に対応方法を示してもらうことが、不要な相続争いを防ぐためにも必要です。

独居高齢者 中條レポートNo188

独居高齢者が急増しています。

子が独立し連れ合いが亡くなり独居高齢者に。アパートで全世帯がいつのまにか独居高齢者ということも。未婚急増はこの傾向に拍車をかけます。

地域社会のコミュニティは?
隣同士挨拶しない。会話がない。かかわりあいがない。名前も知らないことも。
お隣とのかかわりがなければ、近隣とのかかわりもありません。

行政が税金を使って行っている安心網。
介護、医療、生活保護、等々。
「砂上の安心網」(新聞の見出し)。的をえた言葉だと思いました。

団塊世代が後期高齢者になるころ日本はどうなるのか。
財政には限りがあり、「砂上の安心網」は機能しないでしょう。

解決方法は地域社会の連携しかないと思います。
自治会で高齢者見守りのシステムをつくる。若い世代に役割を与える。等々。しかし、義務的にやることは「砂上の安心網」の域を出ません。

いろいろな案があるでしょうが、まずは挨拶からでは。
笑顔で、おはようございます。こんにちは。そして、ありがとうございます。

「そんなことをやったって……。」と言われかもしれません。
でも笑顔で声かけが出来たら、援助も自然に出来るはずです。
援助は若い世代から高齢者の一方通行ではなく、
高齢者から若い世代への無形の援助も。

日銀が国債を買い財政を支え、株を買い株価を支える。みせかけの財政が、いつか崩れるのは明白です。砂上の安心網はむなしく消え去るでしょう。

だから、簡単なことから。出来ることから。日々新たに、一歩一歩。
そこから新しい社会が生まれるのでは。

法律問題にしてはならない 中條レポートNo187

相続でやってはいけないこと。
それは法律を前提に判断することです。

「法律は正しい」。 〇でしょうか、×でしょうか?
判断する問題の性質によります。

法は全ての国民に適用されるものです。
一人ひとりの事情によって判断を変えていたら法ではなくなります。

だから事情に応じて判断を変えた方がよい問題は、法よりも当事者間での決め事が優先する仕組みになっています。当事者間で決められない場合に、法を適用して決める手段を用意しているのです。(家庭裁判証における審判。等々)
ですから「法律が△△△だから、□□□だ」は〇でも×でもないのです。

相続で典型的なのは
「法律で定められているから、法定相続分で遺産分割をする」
相続人全員の合意で、遺産の分け方は自由に決められます。

一方、法が絶対的な判断力を持たなければ社会秩序が保てないものは、当時者間で定めても効力を認めません。
例 人を殺してはいけない。赤信号で渡ってはいけない。等々。

相続で言えば、
「生前に親族間で取り決めた遺産分割は効力がない」
たとえ当事者間で「有効にする」と取り決めても効力はありません。
これは、親に物言えぬ相続人が、否応なしに財産がもらえなくなるのを防ぐためだと言われています。

このように、法は当事者間で決めたことを優先するものと、当事者間で決めても無効とするものがあります。

「何故そのような仕組みになっているのか」ということを考える必要があります。
法は社会秩序を守るためのものでありますが、必ずしも、当時者間を幸せにするものではないということです。

相続は家族間の問題であり様々です。
法律問題にしてはならないと言われる所以です。

一般人感覚 VS 法解釈 中條レポートNo186

被相続人母親 相続人長男・次男の二人。(法定相続分 長男1/2 次男1/2)
相続財産 預金2,000万円。
遺言はありません。
生前に長男は母親から2,000万円の住宅資金贈与を受けました。

現行の法解釈では遺産分割を行わなくても長男は銀行から法定相続分の1,000万円を引き出すことが出来ます。(但し実務上、弁護士の助けが必要です。長男単独で銀行窓口で「1,000万円引き出したい」と言っても「弟の同意が必要」と断られます)

長男は生前贈与2,000万円+遺産1,000万円の合計3,000万円を得ることが出来ますが、次男が取得出来るのは1,000万円だけです。

何故このようなことになるのでしょうか。
それは預貯金の法的性質からくるのです。

法的に預貯金は、相続人が亡くなったと同時に、法定相続人に法定相続分で分割されてしまう財産とされ遺産分割の対象ではありません。(預金は銀行に対する可分債権だからです。ですから、現金は遺産分割の対象です。預金が現金に変わっただけで資産の性格が変わります。これは法律に書かれているのでなく、最高裁の判決によるものです)

但し、相続人全員が合意して遺産分割の対象財産にすればその合意が優先します。また遺言があれば、遺言の内容が優先されます。

でもこの法的解釈は、一般人の感覚では「おかしい」ですよね。
そこで、これを不服として上記と同様な案件で争いが起きました。

上記例でいうと、次男が長男に対して死亡時の2,000万円を遺産分割の対象にしろと争ったのです。次男の主張がとおれば、遺産の2,000万円は次男のものになります。

この事件が現在、最高裁の大法廷で争われています。(大法廷で争われていることは、「預金は遺産分割の対象でない」という、最高裁の判例変更の可能性を意味します)

判決は今年12月。
一般人の常識が法的解釈(最高裁判例)を破るか!
注目の判決です。

幸せ対策 中條レポートNo185

定年退職し、次のステージを迎える60・70代。
相続対策を考えるには早すぎます。
超高齢化社会、これからの人生をいかに有意義に生きるかが大切です。

このテーマで書かれた「相続の6つの物語」。
著者は資産税では日本No1の著名税理士です。

視点は、相続対策ではありません。幸せ対策です。
財産を遺す対策から、使う対策です。主役は女性です。合理的な相続対策は女性の感性に合いません。

「エンディングノート?それは最後の最後。それよりやりたいことを書き出して、片っ端からやっていきます。
「ストレスとお金はため込みません」
「預金残高より楽しい思い出残高を残します」

ノウハウ本ではありません。個々の読者に自由に考えてもらうための物語が書かれた本です。

財産を守り、次の代に引き継がせるという概念が変わってきています。
不動産を売ってお金に変える。
もしくは、安定した収益を生み出すものに買い替える。
固執するのではなく、活用すること。

但し、預金に変えただけでは使えば目減りします。目減りすると、不安になって使えなくなるものです。もう一工夫し、毎月入ってくる年金に組み替えます。定期的に入ってくる財産は何故か使えます。

幸せ対策で大切なのは決断です。
実行には、財産を組み替えるなど、思い切った行動が必要です。ためらっていると、月日がどんどん過ぎていきます。

決断が先延ばしになれば、一番大切な“楽しめる時間”が減っていきます。
そしていつしか気力が衰え、子供たちの言いなりになることも……。

幸せ対策の決断は元気な今です。

葬儀・お墓 中條レポートNo184

突然ご主人が亡くなり、病院で霊安室からの遺体の退去を迫られ、連絡した葬儀社に言われるがままということがあります。(病院には一時的にしか遺体を置けません)

そんなことにならないように生前に決めておきたいこと。
➀どのような葬儀にするか
➁遺体をどこに安置するか
➂どの葬儀社にするか
➃費用はどれくらいかけるか
➄誰に知らせるか
➅遺影の写真

葬儀のひとつ家族葬。
身内だけで行うため、費用負担も煩わしさも少なくなると考えるのは早計です。
香典等が少なく、基本的にかかる費用は普通の葬儀と同じため、家族葬の方が収支が悪くなる場合もあります。

また、家族葬は葬儀が終わった後、訃報を知った人が弔問に訪れることが多く、いつまでも落ち着かない日々を送ることもあります。

費用・わずらわしさだけで選ぶのではなく、故人の想いを尊重し選ぶことが大切です。

お墓も大切です。
墓地墓石の価格の目安200万円~300万円。
費用は墓地の永代使用料と墓石代。その他、管理料がかかります。

お寺・民営・公営それぞれの特徴があります。また墓石の石材店が指定されている場合のメリット・デメリットも知っておくことも大切です。

今後、増えるだろう永代供養も様々です。
永代供養には期限があり、期限後遺骨はどうなるのか等々、知らべておくことがたくさんあります。

核家族・単身者が増えていて、先祖からの葬儀方法・墓が決まっているという人は減っています。
生前から準備しておく時代になっていることを感じます。

本当のこと 中條レポートNo183

ある投資セミナーを受講しました。講師が伝えたかった事は
「本当のことを知って投資をして欲しい」

売り手側は商品を売らなければなりません。売るために本当のことを言わないこともあるようです。
「本当のことを言ったら買ってもらえない」
しかし、コンプライアンスが重要視される昨今、嘘を言うことはできません。
嘘は言わないけれど本当のことも言わない。

株や債券が目先上がるか下がるかは神のみぞ知る世界です。
上がる株を教えてと言われてもわからないのが本当のことだと言われました。

毎月配当型投資信託は人気がありますが、コンスタントに毎月配当することは難しいことです。
日本の投資信託の資産保有残高の上位10位は毎月ファンド型の商品です。
目先の配当がよい商品にお金が集まっているということです。本当に良い投資先という観点でなく、目先配当が出るような(配当があるように見せかけられる)商品に誘導されていないか。このことを解って投資しているかが重要だということです。

日本株の長期投資についてです。
日本の経済(名目GDP)はここ20年成長していません。日本株に長期投資をしている人が、このことを知って投資しているでしょうか。
投資することが悪いのではありません。このことを知っているかどうかが重要なのです。
今まで停滞していたが、今後は成長が見込めると判断したうえでの投資はOKです。

本当のことはその道のプロでなければわかりません。
プロは知識・経験の差でお客様を誘導出来てしまいます。

相続の現場でも同じようなことがあります。
アドバイスが幸せに導くためのものか、商品を売るためのものか。
誰に相談するかが重要になります。