精算型遺言 中條レポートNo151

1980年88万人、2010年480万人、2035年予測762万人。
65歳以上の独居高齢者の統計データと予測です。
驚くべき数字です。

この中に、子供がいない独居の方も相当数いるでしょう。(今後比率は高まるでしょう)子供がいない方の相続人は親。親が亡くなっていたら兄弟姉妹。兄弟姉妹が亡くなっていると甥姪になります。
縁遠くなった兄弟姉妹甥姪よりも、身近にお世話になった知人、団体に自分が亡くなった後財産を残したいという人が増えています。この場合、物よりもお金に変えて分配することが与える方、頂く方も嬉しいと思います。

そんな場合に活用するのが精算型遺言です。
第一条     私の財産を全てお金に換えて、葬儀費用・病院等の債務を支払った残金の○分の△を甲に、○分の×を乙に与える。
第二条 本遺言の遺言執行者に丙を指定する。

この遺言のよいところは遺言執行者が全て手続を行える事です。不動産の売却、預貯金有価証券等金融資産の換金、債務の支払等々です。
他の相続人のハンコがいらないということです。財産を貰わない相続人のハンコが必要だと手続はスムーズにいきません。

全財産を精算型遺言にする必要はありません。例えば

第一条     下記不動産は甲に遺贈する。
第二条     第一条以外の財産を全て換金して……….甲、乙に二分の一ずつ与える。
第三条     本遺言の遺言執行者に丙を指定する。
その人の財産、与えたい人に応じた遺言が作成出来ます。

子に対する遺言でも精算型遺言が増えるように思います。
価格がわかりにくい不動産を分けるとどうしても不公平感が出ます。それであれば売却したお金で分ける方がすっきりするからです。

遺言書作成時、精算型遺言も選択肢のひとつとして考えてみてはいかがでしょうか。

思考が現実化する 中條レポートNo150

「私達が物事を思ったり考えたりするのは何のためか」
答えは、有るべき自分を創るためです。

しかし、思ったり考えたりすることは人の心の当然の働きだと思っている人が多いようです。だから思ったり考えたりするままに、思ったり考えたりしています。心に使われてしまっているのです。

気に入らなければ怒り、怖くなれば恐れ不安になり、嫌な相手を恨み妬む。
しかしこの心が今の自分を創っている事に気が付いていません。

不運なことが起こると、これは自分の蒔いた種じゃないと思ってしまいますが、全て自分が原因です。心の中の思い考えが現在の自分にしているのです。

そうであれば思い方、考え方を取扱ってみてはどうでしょう。心に勝手に思わせるのではなく、心を利用するのです。

具体的には、心のなかで自分がなりたい自分を、信念をもって常に思い考え続けるのです。そして思い考えた事を映像にして心に鮮やかに描くのです。
そうすれば自分の思った通りの自分になっていきます。

心が行う思考の源は意識です。人の意識には潜在意識と実在意識があります。私達が思考しているのは実在意識です。

そして潜在意識は実在意識で思考したこと、経験したことをしまっておく倉庫であると同時に、実在意識で思考したことを現実化するように勝手に働く機関なのです。

だから心の中で描いたとおりの自分になるのです。全ての事象の源が自分自身であることの由縁です。
心に使われ、思うままに、思ってしまう事の愚かさがわかります。

相続で争っているときの「心」を覗いてみてください。
心に使われてないでしょうか。心に使われるままに思い・考えて、悩み・怒り・憎しみ、自分を苦しめます。そして心に描いた通りの結果が自分に顕れます。

相手が悪いのではありません。原因は自分自身にあるのです。
心を取扱い、思考を変えてみたら…..。

相続で譲り、感謝した人が幸せになることが真理であることがわかります。

非嫡出子差別違憲 中條レポートNo149

平成25年9月4日最高裁判所は、「非嫡出子(婚姻関係がない男女の間で生まれた子)の相続分が、嫡出子(婚姻関係にある男女の間で生まれた子)の半分、という民法の定めは憲法14条の法の下の平等に違反する」と判断しました。

憲法14条は合理的な根拠に基づくものでなければ差別を禁止するという法律です。
相続制度をどうするかは立法府の裁量に任されています。この裁量に合理的な根拠があるかどうかが争点でした。

平成7年の最高裁ではこの差異は憲法違反でないと判断しています。理由は
「民法の規定は法定相続分通りに相続が行わなければならないと定めたのではなく、遺言が無い場合に補充的に機能する規定であるから」
と言っています。
“法定相続分で困る人は、遺言で相続分を修正すればいい。遺言が無い場合の遺産分割も相続人が合意すれば法定相続分で分けなくてもよい”ということです。
しかし今回は補充的な機能ということを考慮しても合理的な根拠が認められないとしました。

終戦後、新民法が制定され家督相続は廃止されました。しかし嫡出子と非嫡出子の相続分には差異の条項を設けました。
当時は家を守るという気風が強く法律婚を尊重していたからです。又諸外国も相続分に差異を設けていたことも影響していたようです。
しかし、時代は変遷し非嫡出子の出生数は増加が続いています。晩婚化、非婚化、少子化・離婚・再婚が増え、婚姻・家族の形態が多様化し国民の意識も変わってきました。また諸外国も差異を無くし平等化していきました。平等化は世界的な流れなのです。
最高裁は「民法の規定が間違っていたのではなく、時代の変遷とともに社会状況に合わなくなっていった」と言っています。そして 合憲 ⇒ 違憲 と変わっていったのです。

「生まれてくる子供に責任はない」その通りだと思います。今回の最高裁の決定により、民法改正が近々国会で行われるでしょう。
危惧するのは、婚姻の意味が薄れていく事です。結婚して縛られるより自由な状態な方が良いという風潮が広がることです。
国家の基盤の最小単位は「家」。この絆がしっかりしないと国家が強くなれません。
民法改正と共に「家」の在り方を再考していきたいものです。

死後委任契約 中條レポートNo148

死後のことを、生前にお願いする。このことを死後委任契約といいます。
民法651条では委任契約は委任者の死亡により終了すると書いています。しかし平成4年の最高裁判決で、
「委任契約が委任者の死亡によっても終了しない旨の合意をすることが出来る」との判断をしました。しかし何でも出来るわけではありません。
例えば財産処分。これは遺言という厳格な方法で行わなければなりません。委任契約で出来てしまったら遺言の意味がなくなります。

ではどのような場合に死後委任契約を利用するのか。
①生前に発生した未払い債務(病院・施設入所費用の精算)の弁済。
②委任者の死後の葬儀・埋葬・納骨。
③生活用品・家財道具の遺品の整理・処分に関する事務。
④家族・親族・親友・関係者等への死亡した旨の連絡事務。
⑤遺体の引取り。
等々
(②④⑤は遺言では出来ません。①③は遺言より機動的に出来ます)

どんな場面で活用出来るのか。
例えば、自宅に独居で住んでいる人。親戚との付き合いも遠ざかり、死後面倒をかけたくない場合。
死後の、葬儀(関係者への連絡。死後の事務に関し一切面倒を書けない旨を伝える)、納骨(永代供養)、身の回りの品物の処分を委任契約でお願いします。
自宅、預金等の財産の処分は遺言で行います。遺言執行者を定め自宅を処分、預貯金を換金してもらい、お世話になった人、親族に分配してもらいます。

賃貸住宅に住む独居の方も死後委任契約と遺言の組合せで、同様に手続をすることが出来ます。
賃貸人は独居高齢者の入居に対して、死後の処理を懸念して入居を拒むことがあります。独居高齢者が入居しやすくなることにも役立つでしょう。

高齢化社会。独居で暮らす方の数は増え続けます。
死後委任契約と遺言を組み合わせ憂いなく老後を暮らす事が出来れば利用価値は高いと思います。

湯布院 中條レポートNo147

先月大分県湯布院へ行きました。相続アドバイザー協議会全国大会に参加するためです。

信号のない街“湯布院”。
道を人、車、馬車が通ります。

信号という決まりがないため、道を渡るかどうかは人の心が決めます。
自然と譲りあう心が芽生えます。
駅を降りて街並みを見た時、心がゆったりしたのはそのためかもしれません。

信号も法律です。
私達の日常生活を規制する(縛る)法です。
この種の法には子供の頃から知らずに縛られています。
縛られているものから開放されたことも、ゆったりとした気持ちにしてくれた一因かもしれません。(もちろん山々に囲まれている自然のお陰さまでもあります)

この種の法とは違い、問題(争い)が起きた時に必要となる法もあります。
問題がおきなければ“法”という言葉は出てきません。そのときは人の心が判断基準となります。

代表的なものが相続です。
問題(争い)が起きた時、法を駆使して問題を解決します。
しかし法は一律に判断します。
事象ごとに法が解釈を変えていたら法でなくなるからです。したがって法は感情に左右されることもありません。
道義的に間違っていても法に則していればまかり通ってしまうこともあります。

譲り合う心があれば、信号も、相続法も必要ありません。法に縛られることもないから皆の心も和みます。
相続コンサルタントの役割は法とは別の世界で“相を続けていく”お手伝いをしていくことではないかと思いました。

そんなことを感じさせてくれる街、湯布院でした。

死の淵を見た男 中條レポートNo146

「死の淵を見た男」(PHP)を読んで。

福島原発は危機的だった。

爆発すれば“北海道”“福島を中心とした東北・関東”“西日本”と日本が3分割された。
東北・関東は放射能で住めない地域になった。
東北・関東の人々が大移動することは想像を絶する困難があっただろう。

その危機が救われた。
救ったのは何か。
現場で最後まで原子炉に注水作業を続けた東電、関連会社、自衛隊の人達であったことは間違いない。

現場総責任者の吉田昌郎氏が万策尽きて神にすがった。
しかし決してあきらめたわけではない。
神頼みしかない状況だが最後まで注水することを決めたのだ。

最後とは「死」。それに追随した東電社員が50数名。共に死を覚悟した仲間だ。
吉田昌郎氏という人を導ける稀有な人物があの時の現場総責任者だったことが不幸中の幸いだった。
人が持つ力の無限性を感じる。
その後自衛隊や、一旦避難した作業員も加わった注水活動が功を奏し危機的状況は打開できた。

この事故は人災だと言われている。
10m以上の津波を想定した危機管理がされていなかったからだ。
数年前スマトラ沖で発生した津波が起きたときもその事実を考慮した安全対策を取らなかった。
9.11のようなテロが原発に向けて起きたら…….。
考えただけでもゾッとする。
テロに対する安全策がどれだけ取られているか。
起りうる可能性のある全ての事象に対して対策を講じていたら採算は合わず、原子力発電を続けていくことは出来ない。
火力発電に戻せば地球温暖化の問題が出てくる。

抜本的な解決策がないまま、妥協策ですすんでいる電力対策。
景気という幻想を追い求め続ける性が妥協策を促進しているように思える。

これでよいのか。
命をかけて故郷・日本を守った人達はどう思っているのか。
東電、政府に責任を押し付けてよいのか。
また押し付けて問題が解決出来るのか。
便利さを求め享受してきた国民が責任者であり、責任を取らなければならないと思う。
その観点から対策をたてていけば、違った対策が出てくるのではないか。

日本が分断されていてもおかしくなかった災害。
この戒めを無駄にはしたくはない。

 

弁護士法72条 中條レポートNo145

弁護士法72条
「弁護士でない者は、報酬を得る目的で訴訟事件等の法律事件に関して法律事務を取り扱うことができない。(略文)」

弁護士以外の者が法律事務を行う事を禁止する法律です。多くの職種の人がこの法律により業務領域を制限されます。職域確保のためか弁護士会の取り締まりも厳しくなっているようです。

この法律の立法趣旨は何か。職域確保のためか。そうではありません。
法律事務はその人、その人の財産を扱う仕事です。人生さえも左右させます。だからその法律を取り扱う人を厳しく制限しているのです。
弁護士になるため厳しい試験を課し、なった後も厳しい倫理規定で縛ります。違反すると懲戒処分に付されることもあります。
実際、弁護士の方々の精神的負担は重く心労により病になるひとも多いと聞いています。その負担に耐えられなければ人の人生、財産を左右させる法律を扱ってはならないということです。

弁護士の仕事は戦争請負人です。依頼人に代わって相手方と戦うのです。戦略を立て、戦術を立て武器を使って戦います。
戦略・戦術を立てられず無防備で(弁護士資格なく)戦場にいったらやられます。結果、依頼者に迷惑をかけることになります。わかったつもりで法を使うと危険です。

弁護士法72条の立法趣旨、弁護士の役割を理解したうえで、弁護士以外の人が出来ることを考えてみます。
「戦争を弁護士に依頼するべきか」
「依頼する内容」
「戦争をやめる時期」

これらを感情だけで判断してしまいがちです。(戦争に勝つことがよいこととは限りません)戦いの渦中にいる人は自分を見失います。大局的な見地から依頼者と共に考え(出来れば依頼者と弁護士の話合に同席する)、進む方向性を見つけていく役割は重要です。

しかしこの役割は簡単ではありません。
依頼者、そして弁護士からも頼られるような人間力、ぶれない理念が求められるからです。日々の鍛錬が欠かせません。

税制改正 中條レポートNo144

平成27年1月1日以降の相続から基礎控除が引き下げられます。
・現行 5,000万円+法定相続人の数×1,000万円
・改正後 3,000万円+法定相続人の数×600万円

同時に居住用小規模宅地特例※の面積が緩和されます。(※亡くなられた方が居住していた土地を一定の要件を満たした相続人が取得すると土地の評価を減額してくれる特例)
・現行240㎡の内80%が減額。
・改正後 330㎡の内80%減額。

相続税評価額1億円100坪の土地では約2,200万円評価がさがります。
90㎡分(330㎡-240㎡)の8割 72㎡分少なく評価されるからです。

この特例緩和の減税効果が基礎控除引き下げの増税効果を上回ることはあるのでしょうか。相続人が子供2人の場合で考えてみます。(税率構造の改正に影響を受けないと仮定)
基礎控除は現行 7,000万円 改正後 4,200万円 差額2,800万円
72㎡分少なく評価されて2,800万円さがる土地です。
坪単価が約129万円以上の区域です。かなり高額な土地です。

このことから減税効果があるのは都心の一等地に100坪以上の土地に住む限られた人であることがわかります。改正の趣旨でも国は次のように言っています。
「基礎控除の引下げにより、都市部に不動産を有する人への相続税の負担が大きくなることから“激変緩和措置の一環”としてこの特例について見直した」

平成22年から始まった相続税改正、最初に手がつけられたのが小規模宅地適用の厳格化。この厳格化は世間ではあまり報道されませんでした。しかし特例適用が受けられなくなった人の増税効果は基礎控除引下げに匹敵するものがありました。そして今回は緩和策。

小規模宅地が相続税の税制改正の味付け役になっているように感じます。
食の味を大きく変えてしまったり、一部の人にしか感じないような味の変化だったり様々です。このことは、今後も小規模宅地が税制改正の味付け役として使われる可能性があることを示しています。

税制改正は魔物です。そして全ての人に平等な改正は不可能です。税制改正に振り回されないようにしたいものです。