ご主人に先立たれ、第3相続順位の代襲相続人が12人いるAさんの相続を前回お話ししました。Aさんは私の事務所の前をご主人と一緒にいつも通っていたそうです。そして一度ここへ相談に行かなければと、ふたりで話をしていたとのことでした。
ところが法律事務所だと思い込んでしまい、敷居が高いのではないか、相談料も取られるだろうと入るのを躊躇していました。そうしているうちにご主人が亡くなってしまいました。
弊社には敷居などありません、相談は何回でも無料です。最近は相続だけでなく福祉の相談もあります。誰もが気軽に入れる相続と福祉の相談室として地域に貢献できれば存在価値が出てきます。
生前に相談にこないで運が分かれる人もいます。無料相談の看板がAさん夫婦の目に入らなかったのが悔やまれます。
相続相談は一般には馴染みがなく足が向かないのが現実です。生前に相談を受ければ可能なことも、認知症の発症や相続が開始してしまってからではできることは限られてしまいす。
子のいないAさん夫婦の状況を聞いた専門家なら、誰もが遺言の作成を提案してくれたと思います。そして全財産は円滑に相続でき、Aさんは辛い思いをしなくて済んだはずです。相談は相続が開始する前か後かでは、時には天と地の差になることもあります。
無料相談だけで問題が解決してしまうことも少なくありません。
Bさん(45才独身長女)からの相談です。父親が亡くなり相続人は母親とBさんです。主な財産は自宅で相続税の課税はありません。
母親は末期ガンで医師から余命を告げられている、相続手続きは10か月以内と言われた、期限は迫ってくる、相続など初めての経験で、何もわからず毎日モンモンしているとのことでした。
無責任な知識や情報に惑わされてしまう人もいます。助言をした人は相続税申告期限(10か月以内)と、相続手続きを混同していると思われます。この相続に相続税申告義務はありません。
話を傾聴してみると、遺産の預金はすぐには必要ない、Bさんの目的は自宅に住み続けることができればとのことでした。
「このままにしておくこと。相続のことなど考えないで母親のお世話に集中し、心静かに旅立ってもらうこと。母親が亡くなった後に両親の相続手続きをすること。」これが私のアドバイスでした。
このままでは自宅は母親とBさんの未分割共有状態になります。だが、自分が住んでいる分には何の支障もありません。
つい法律や税金や財産に目がいってしまいがちです。が、いかに母親に穏やかに旅立ってもらうか、ここがこの相続問題の本質です。
法律相談と心が絡む相続相談とは別ものです。相続相談は問題の本質を見抜く冷静な視野と思いやりが必要です。
1時間ほどの面談でしたが、Bさんは入ってきた時とは別人のような安堵の表情を浮かべ帰られました。