自筆証書遺言を生前に開封する 野口レポートNo242

相続コーディネーターとして相続のお手伝いを始めて21年になります。この間に多くの自筆証書遺言を見てきました。

遺言は無いより、有ったほうが良いのは言うまでもありません。仕事の展開が円滑(円満とは別)に進むことは確かです。

しかし、欧米の60%~80%に比べ、日本人の遺言作成率は亡くなる方のわずか10%弱と圧倒的に少ないのが現状です。

「ウチの子に限って」親ならば誰もが思う親心。しかし、親の思いや願いが子に通じるとは限りません。こればかりはフタが開いてみなければ分かりません。

相続人層の移り変わりに伴い権利意識は増すばかりです。「法定相続分」この言葉が当たり前に出てきます。特別受益、寄与分、遺留分など、法律用語も飛び出してきます。

インターネットで相続情報はいくらも入ってきます。自分に都合の良い付け焼刃の知識だけが頭に残り、相続での話し合いを一層難しくしています。相続に対する子(相続人)の権利意識や時代の変化を見据え、親も遺言の必要性を認識すべきだと思います。

遺言は法的に厳格な要件があります。公正証書なら法律の専門家が作るので法的不備が原因で無効になることはないでしょう。

それに対し自筆証書は法的要件を満たさずに無効となるものや、法的要件を満たしていても内容が不備で使えない遺言など、経験値からすると全体の40%近くもあります。

《無効の遺言の典型》◎日付が何月吉日 ◎何月までしかない ◎押印がない ◎遺言者が連名 ◎一部がスタンプ。 

《法的要件を満たしていても使えない遺言》◎自宅裏の土地(裏には複数の土地がある。) ◎地番しか記載されてない(同じ地番は全国にいくつあるか分からない。) ◎土地が住居表示 ◎預貯金の口座が特定できない ◎受遺者が特定できない(良子に相続させる。)全国に良子さんは何人いるか、妻良子とあれば特定できる。

「半分近くが不備や無効」この現実を知りながら、「プロとして何もしなくてもよいのか!」私はできる限り生前に開封するようにしています。相続後に開封すると5万円の過料を取られます。だが、生前にご本人(遺言者)に開けてもらう分には問題ありません。

チェックし無効であれば作り直すことができます。有効であってもこの機会に公正証書にするとか、公証役場に行くのが面倒なら新たな封筒に入れ直しておけば済むことです。

封印した自筆証書遺言を後生大事に保管し、家庭裁判所の検認でいざ開封し、無効の遺言が出てきたら目もあてられません。自筆証書遺言は専門家の指導を受け作ることをすすめます。

分割が難しい日本人の財産構成や、子の権利意識の変化を考えると、現代では遺言作成は親の義務のような気がしてなりません。

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