相続での預貯金は法律では当然分割として扱います。当然分割とは遺産分割が不要であるという意味です。預貯金は相続人が法定相続分で当然に取得できる「可分債権」だからです。
しかし、銀行は可分債権だからと言って、「ハイそうですか」と応じてくれません。銀行実務では相続人全員の同意を求めてきます。同意が得られず、可分債権として引き下ろすには、銀行を相手に預貯金返還請求の訴訟を起こさなければなりません。
平成16年の最高裁判決で、原則預貯金は法定相続分で相続人に当然に分割されて、遺産分割の対象とならないとされていました。
ところが、平成28年12月19日の最高裁大法廷で「預貯金債権は遺産分割の対象財産とする」との判例変更が決定されました。
この判例変更で法定相続分での預貯金返還請求ができなくなり、以下のような相続人は救われません。
事例①⇒「奥様に先立たれたBさんは、1人で寂しい日々を過ごしていました。10歳年下で独身のCさんとご縁があり後妻にむかえることができました。生活は一転し充実した日々に変わりしました。自分が先に逝くと思ったBさんは、後妻さんが困らないようにと自分の預金を全て後妻名義の通帳に移しました。
予期せぬことに自分より年下の後妻さんが先に逝ってしまいました。だが悲しんでいる暇はありません。Bさんのお金は全部後妻さんの遺産になってしまいました。相続人はBさんと後妻さんの兄弟姉妹です。遺産分割がまとまりません。預金を全て移してしまったBさんに生活費がありません。弁護士にお願いし法定相続分での払戻請求をかけ、何とか生活費を取り戻すことができました。
事例②⇒「Cさんはそれなりの資産家です。相続争いを起こし遺産分割が成立しません。10ヶ月以内に成立しなければ、法定相続分で相続したとし、未分割申告をしなければなりません。
各相続人はその割合で相続税を納めなければなりません。預貯金は凍結されているので納税ができません。納税が遅れると高利貸しのような利息を取られます。法定相続分で払戻請求をかけ、何とか納税資金を調達しました。」遺産分割が成立した後は、修正申告や更生の請求で税額の差額を精算することになります。
この2つの事例は、預貯金が当然分割であることから、可能となった事例です。だが、最高裁の判例変更でこれから銀行は応じてくれないでしょう。このような相続人は救済できなくなります。
現在審議中の相続法改正にも、この可分債権が盛り込まれています。従来通り可分債権を前提として扱う案と、最高裁の判例変更と同じく遺産分割の対象に含めるとの2案が中間試案で出ています。
預貯金が凍結されると困る人はたくさんいます。はたして救済処置が設けられるのか、法制審議会の結論が待たれるところです。