遺留分とは相続人に残された最低限の財産分のことを言います。配偶者と子は法定相続分の半分が遺留分です。遺留分減殺請求をして初めて効力が生じます。遺留分を侵害されていると知った時から1年、知らなくても10年で時効により消滅します。
遺言で不動産を取得した人は、相手の減殺請求に対し、現金で払えば足りる「価格弁済の抗弁」があります。相続放棄は生前にはできませんが、遺留分放棄は生前に可能です。また、第3相続順位の兄弟姉妹には遺留分の権利はありません。
あるご主人(Aさん)が亡くなりました。遺産は自宅の土地・建物のみで、Aさんは再婚です。後妻さん(Bさん)は、幼い先妻の子どもたちを、我が子のように育て立派に成人させました。Aさんは公正証書の遺言を残しておりました。
49日の法要を終えホッとしていると、弁護士から1通の内容証明が届きました。先妻の子(Cさん)から、よもやの「遺留分減殺請求」です。Bさんとしては、恩を仇で返されたような気持ちです。
原因は、全財産を妻へとの包括遺贈であったこと、他にも財産があると思われてしまった。ご主人の気持ちを添えておく「付言」がなかった。あとはCさんの経済事情などが考えられます。
一度上げてしまった手は下ろせません。家庭裁判所の調停で決着がつきましたが、弁護士費用などを差引くと、減殺請求をしたCさんの手元に残るお金はわずかです。継母から受けた愛情と恩を仇で返してしまったCさんは生涯後悔することでしょう。
全く同じパターンの事例です。こちらの後妻さんは遺留分減殺請求をされませんでした。遺産はわずかな預貯金と借地権付建物です。葬儀を済ますと、先妻の子どもたちから「私たちにも権利があるんですよね」と度々電話が入ります。
公正証書遺言がありました。財産が全部明記(少ないと分かる)されており、「妻へ」との内容です。なぜ、このような遺言を残したのか、ご主人の心情が見事に綴られた「付言」があり、最後はみんな仲良く暮らしてほしいと結ばれています。
遺言を公開してから電話はピタリと止まりました。遺言は、法律効果のある本文と、遺言者の気持ちを伝える「付言事項」があります。付言は法的効果こそありませんが、相続人の心に響き無益な争いを防ぐ予防効果があります。
もし父に好きな女性ができ、全財産を遺贈するなどの遺言を書かれたら、残された妻子は路頭に迷います。こんな時には「遺留分減殺請求権」この法律が光り輝くことでしょう。
だが、その多くは一族の崩壊につながります。減殺請求の内容証明は相続争いの宣戦布告です。内容証明が届いた瞬間に相続人は、一族の「和」この何にも勝る大切な財産を失います。