借地人「ここに住まなくなったので、借地権を買い取ってくれませんか。」地主「買えだと、とんでもんない。使わなければ無償で返すのが当たりまえだろう。」
借地人「ならば仕方ありません。他の人に売ります。」地主「売れるものなら売ってみろ、裁判でも何でもやってやろうじゃないか。」
地主と借地人がこんなやりとりをしたあと、借地人さんが私のところへ相談に見えました。
旧法借地権が難しいのは度重なる改正で、本来は債権である土地賃借権を、物権である所有権に限りなく近づけてしまったことにあります。日本で唯一、借りたものを返さなくていい法律です。
借地権の譲渡は、地主の承諾が得られなければ、借地非訟手続きで裁判所が代諾許可を出してくれます。だが、地主と揉めている借地をあえて買う人がいるかどうかは疑問です。
また、買主が銀行から融資を受けるには地主のハンコが必要となります。揉めていたらハンコなど押す地主はいません。代諾許可での借地権譲渡は現実には難しいものがあります。
借地人さんの相談を受け、取りあえず地主さんのところへ行きました。地主さんは借地人さんに対し怒り心頭です。
そんな折、ある住宅メーカーが提案してきました。借地権を買い取りたいとのことでした。投資家からお金を集めアパートを建て、家賃収入を配当するとのことです。ファンドを組めば銀行から融資を受ける必要はなく、地主さんのハンコもいりません。
しかし、このまま住宅メーカーに借地権を譲渡してしまったら、その道のプロが容赦なく入ってきます。地主さんはいやな思いをするでしょう。借地人さんにしても後味の悪さが残ります。
借地人さんを説得し譲渡価格を下げていただきました。地主さんの奥様にも状況を説明し、ご主人の説得をお願いしました。地主さんも一歩譲ってくれ借地権を買い戻してくれることになりました。
ここで予期せぬことが起こりました。借地人さんに止むを得ぬ事情が生じ、引っ越しが延びてしまったのです。せっかく合意したのに借地を引き渡すことができなくなりました。
少ない脳ミソと知恵を絞り、ある提案をさせていただきました。
(1)地主さんが借地権付建物を借地人さんから買い取る。(2)地主さんの所有になった建物を、借地人さんが更新のない定期借家契約で借り、払っていた地代相当額を家賃として払い、引っ越し準備が整うまで引き続き住む。(3)この二つの契約を同時に行う。
1年後、無事に引き渡しは終了し、双方から感謝されました。犬猿の仲であった2人でしたが、最後は互いが譲ってくれました。
銭勘定に人の感情が絡んでくる借地問題は、相続問題とよく似ています。相続ができる人なら借地問題も解決できるでしょう。無益な争いを防ぎ、社会に貢献するところでは共通しています。