借金をしてアパートを建てると相続対策になると多くの人は思っています。たしかに1億円の借金をしたなら、資産から1億円が債務控除されます。これで相続税が安くなると誤解してしまいます。
借金は返済しなければなりません。ひとくちに35年といっても気が遠くなる時間です。相続税が安くなったと錯覚しますが、相続税が借金と入れ替わったことに気がつく人はいるでしょうか。
借金しても相続税を減らす節税効果は生じません。仮に、資産が2億円で負債が0円とします。2億円―0円=2億円(課税価格)です。この課税価格に対し相続税が課税されます。
銀行から1億円の借金をします。手元にあるうちは資産が1億円増えます。が、借金も1億円あるので、資産と負債が行って来いで借金しても課税価格は変わらず相続税も変わりません。
ならば、借金で得た1億円でアパートを建てたならどうなるか、建築費1億円のアパートの相続税評価額は約70%です。さらに借家権割合が減額され、約5,000万円の評価となります。1億円の借金に対し、資産は5,000万円しか増えません。この差に節税効果が生じます。相続税が安くなるのは借金ではなく、借金で得た現金でアパートを建てるからです。借金しないで手持ち資金でアパートを建てれば、シンプルで確実な相続税対策になるでしょう。
築する建物を区分所有登記にしたいと、顔見知りのAさんが相談に見えました。この登記のメリット・デメリットを話しました。
Aさんの賃貸併用住宅の事業プランを聞いて耳を疑いました。
◎1階フロアが自宅部分(自分達の居住エリア) ◎2階3階が賃貸部分で4室(1室賃料12万円) ◎キャシュフロー(返済後の手取り)10万円 ◎建築費8,000万円、全額借入35年返済。
あまりにも無謀な事業計画です。手漕ぎボートに家族全員を乗せ外洋に出ていくようなもので、転覆したら万事休すです。
新築物件なので取りあえず満室になるでしょう。が、新築の雰囲気など5年がいいところです。キャシュフローが10万円しかありません。もし、1室でも空室が発生したら「持ち出し」です。2室空いたらさらに持ち出しです。手持資金が底をついたら返済不能、銀行に抵当権を実行(競売)され自宅まで失うことになります。
相手は建てることしか考えていません。途中で行き詰まっても助けてくれません。最後は全て自己責任です。
冷静に考えれば賃貸併用住宅の居住部分は、生涯において空室をかかえるのと同じです。仮に全部が賃貸だとしても、全額借入35年返済のアパート経営など綱渡りをするようなものです。
その気になっていたAさんですが、私の話を聞いて冷静さを取り戻し、家族会議をひらきこの事業計画を白紙に戻しました。
登記の相談に見えたおかげで間一髪セーフ、Aさんと家族の人生を守ることができました。