夏目漱石「心」の一節です。
「叔父に欺かれた当時の私は他(ひと)の頼みにならないことをつくづく感じたには相違ありませんが、他を悪く取るだけであって、自分は確かな気がしていました。世間はどうあろうともこの己は立派な人間だという信念がどこかにあったのです。それがKのために見事に破壊されてしまって、自分もあの叔父と同じ人間だと意識した時、私は急にふらふらしました。他(ひと)に愛想を尽かした私は、自分にも愛想を尽かして動けなくなったのです。」
尊敬していた伯父に財産預け、東京の大学へ行っていたら、財産を搾取された。
「人の心は変わる。伯父の心を変えたのは金」
自分は伯父とは違うという信念があったが、伯父と同じ人種だと気が付いた時の一節。
気が付かせてくれたのは親友K。
Kと同じ女性を愛し、Kを欺いた形でその女性と結婚する。そしてKは自殺した。Kは自殺した理由を何も残さなかった。
Kが自殺した理由を知っているのは私だけ。それを私の心の中だけに封じ込めていたが限界がきて私も自ら命を絶つ。
変幻自在、そして無限な思いを抱く心。
この心の中身が見えるのは自分だけ。
全ての人を誤魔化せても自分を誤魔化せない。
「心」が超ロングセラーとして読み続けられているのがわかります。
「この小説は相続で迷い道に入る人の心をあらわしている」
との言葉に共感しました。
相続はフランクな兄弟姉妹の関係に財産分配という特殊事情が襲いかかります。財産欲が自分を変え、過度な要求をし、感情の激化が生じます。
「私は間違っていない。相手が悪い」
と心が勝手に判断します。
自分の心が変わったがゆえに出てくる感情です。しかし自分の心の変化に気が付きません。
ある日“私”のよう自分が変わったことに気が付いたときの苦しみは……。
勝っても負けても相続は争うと不幸になります。争う原因は自分でも制御出来ない心の動きです。相続に携わるものとしてこのことを肝に命じておきたいです。
今年もお役に立てるよう、成長していきたいです。